「はんこ不要論」に業界から反発 河野太郎大臣の反応は

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 はんこは文字の使用より古く、原型は紀元前3300年、シュメール人によって作られたと言われている。翻って現代では「はんこ不要論」の大合唱が響く。それを指揮する立場となった河野太郎行革相(57)には業界から怨嗟の声が……。

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 はんこが諸悪の根源かのごとき言われようである。

 菅内閣の目玉人事として行革担当大臣に就任した河野氏は着任早々、

「行政手続きにおける無駄を排する」

 として各省庁に対し、はんこの廃止を通達した。それ以降、“判”で押したように繰り返し「はんこ不要」を訴えている。メディアでは押印がテレワーク推進を阻害しているとも指摘される中、反発したのは「はんこで飯を食う」印章業界だ。

 例えば、全国でも有数の印章の産地である山梨県、その甲府市にある富士印材工業の河西正博会長は、

「発信力のある人だから気を付けてもらいたい。“はんこをなくす”という言い方はいかがなものか。はんこ屋を潰そうと思っているのか。業界の気持ちを考えてほしいですね」

 と怒り心頭。創業50年、日新印章の横森健志代表も、

「ウチは売り上げの4割が官公庁や企業との取引。行政がはんこを使わなくなればさらに経営は厳しくなります」

 印章業界は20年前、2700億円といわれた市場規模が近年、1700億円程度と落ち込む。河野氏が打ち込む「はんこ要(い)らん」の“スタンプ”に業界は困惑しきりなのだ。そこへ、

「私の住む北海道の国会議員を通じて、河野さんとの面会をお願いしました」

 と危機感を募らせたのは、全日本印章業協会の徳井孝生会長である。

“デジタル庁の管轄”

「9月28日、札幌のホテルで20分弱、お話をしました。ネットは“はんこをなくす”ことに賛同する声に溢れています。河野さんにははんこをなくすのではなく、“行政の無駄な押印をなくす”という意味で発言をされているのか、確認をしたかったのです。すると、大臣曰く“デジタル庁の管轄です”とのことでした。明確な返答はいただけず残念でしたが、手ごたえはありました。大臣がはんこ文化を尊重するような発言もしていますので」(同)

 うまくはぐらかされた形になったものの、徳井氏も河野氏の発言には一定の理解は有していると言う。

「行政手続きの簡素化が国民の利益につながるなら、無駄な押印はなくすべきだと思います。ただ、はんこだけを悪、と捉えないでもらいたいのです」

 行政法が専門の東洋大・早川和宏教授が指摘する。

「はんこは、その文書が正しく成立したのかを証明する一つのツール。例えば、世に二つとない手彫りの実印が押されていれば、本人がその文書を確認したという確実性が高まる。ですから、はんこ以外の方法で本人が確認したことを証明できれば、はんこである必要がないのは確かです」

 代わるものとしてパソコン上の「電子決裁システム」が考えられるが、

「パスワードでログインして決裁するシステムなら、そのパスワードが第三者に知られてしまう危険性もあります。実際、森友問題では電子決裁された文書を後に改竄しています。その際、ある職員がシステムにログインできる職員に依頼し、パソコンを借り受けて改竄した。そういうことは起こり得るのです」(同)

 はんこやめろ、も結構だが、それだけで最先端の行政へと生まれ変わるわけではないのである。

週刊新潮 2020年10月15日号掲載

ワイド特集「『事故物件』」より

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