「核武装中立」に突っ走る文在寅、朝鮮戦争終結宣言で「米韓同盟」破棄へ
統制権巡り足を蹴り合う米韓
――文在寅政権の策略に米国はどう対応するのでしょうか?
鈴置:統制権の返還後も、国連軍司令部を通じて韓国軍を指揮・統制し続ける方針と見られています。国連軍司令部は米韓連合司令部の上に位置する組織ですし、未来連合司令部になってもそれは同じです。ただ、政治的な組織に過ぎません。そこで実際の作戦を指導する参謀陣を連合司令部から移す方向と報じられています。
――文在寅政権はそれに対抗できますか?
鈴置:「終戦宣言」こそが、必殺の反撃兵器なのです。先ほど説明したように朝鮮戦争が公式に終われば、国連軍司令部は解体されます。それを根城に米国が韓国軍をコントロールしようにも、国連軍司令部自体がなくなってしまうのです。
文在寅政権は異様なほどに統制権の返還を急いでいます。米韓は「統制権は韓国軍が指揮能力を保持した後に移管する」と約束しています。ところがコロナの流行で、韓国軍の能力を見極める米韓合同軍事演習を十分に実施できない。
米国はこれを理由に早期の移管に難色を示しています。それに対し10月8日、韓国国会の国政監査の席で元仁哲(ウォン・インチョル)合同参謀本部議長が「戦時作戦統制権の移管が遠のいたり、私たちが考えるよりも遅延したりする場合、移管条件を補完する必要がある」と語りました。
分かりにくい言い方ですが、要は「米国が必要と主張する韓国軍の能力が不足していても、韓国が望む時期に移管する」との主張です。
保守系紙の東亜日報は社説「軍『戦作権移管、遅延すれば条件を修正』、政権の日程を安保より優先するのか」(10月10日、日本語版)で「新型飛行機を製造して安全は眼中になく出庫日だけを合わせる発想と大差ない」と厳しく批判しました。
感情に訴える保守系紙
――他の保守系紙も「米軍追い出し」に反対している?
鈴置:もちろんです。「2度目の終戦宣言」に集中砲火を浴びせています。10月9日の朝鮮日報・社説の見出しは「『終戦宣言』をまた持ち出した文、『心が痛む』は本気でない」(韓国語版)。同じ日の中央日報の社説は「『心痛む』発言の2日後にまた終戦宣言に言及した文大統領」(日本語版)でした。
いずれも「今、終戦を宣言すれば国連軍解体と在韓米軍撤収を要求する根拠を北朝鮮に与えるだけ」「そうなれば北朝鮮は絶対に核を手放さない」との批判です。
両紙の見出しに「心が痛む」とあるのは、韓国の漁業指導船の乗組員が海上で北朝鮮軍に射殺された事件に絡みます。
文在寅大統領はろくに北朝鮮を非難もしない。国民の前では「心が痛む」と述べたものの、北朝鮮に対しては事件を棚上げして終戦宣言というプレゼントを渡そうとしている――と、怒りを表明したのです。
この辺り、保守系紙は知恵を絞ったのでしょう。「在韓米軍撤収につながるぞ」との警告だけでは、国民すべてを説得できない。文在寅政権はじめ左派は「米韓同盟が諸悪の根源」と強く信じていますから「終戦宣言で米軍を追い出せるなら結構なことだ」と考えます。
そこで保守系紙は「韓国人が殺された時に終戦宣言なんて暢気なことを言っているとまた、やられるぞ」と感情に訴える作戦に出たと思われます。韓国の左派にも北朝鮮を上から目線で見る人が多い。「北になめられている」との煽りは、彼らにも効くのです。
「バカ!おまえは愛されてない」
――左派系紙は終戦宣言をどう書いているのですか?
鈴置:焦点をずらす作戦に出ています。2度目の「終戦宣言」直前に書かれた記事ですが、ハンギョレの「韓国政府、終戦宣言と共に『金与正副部長の訪米』を推進…朝米対話再開への腐心」(10月8日、日本語版)が典型的です。筆者は東京特派員を経験したキル・ユンヒョン記者。
要約すれば「終戦宣言は朝鮮半島の平和への布石だ。文在寅政権は11月の米大統領選挙を前に金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹、金与正(キム・ヨジョン)副部長の訪米を計画、膠着状態にある米朝関係の打開を図った。終戦宣言は北朝鮮を交渉に引き出すための議題の提供だった」との主張です。
いくら政権に近い新聞とは言え、贔屓の引き倒しが過ぎます。文在寅政権は北朝鮮から一切、無視されている。米朝の仲介役にはなれないのです。
英国のジャーナリストで、ソウル外信記者クラブ会長を務めたこともあるM・ブリーン(Michael Breen)氏がそれを指摘しました。朝鮮日報に寄稿した「バカ! 北朝鮮はお前を愛してなんかいない」(10月7日、韓国語版)です。
見出しから分かるように、文在寅氏の北朝鮮への求愛を「まったく愛されていないのに、追い回して恥ずかしくないのか」と嘲笑したのです。
なお、キル・ユンヒョン記者の記事の韓国語版の読者の書き込み欄にも、ブリーン氏のこの記事のURLが貼ってありました。キル記者に対し「こんなピンボケ記事には騙されないぞ」と言い返した読者がいるのです。
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