「老い」をブロックする酵素「NSD2」 活性化させるカギは「運動」「空腹」「寒さ」?
「インターバル速歩」が
老化のカギを握るミトコンドリアの役割については、日本ミトコンドリア学会名誉理事長の太田成男・日本医科大学名誉教授も、
「電気やガソリンがなければコンピュータや自動車が動かないのと同じで、ミトコンドリアで生成されるエネルギーがなければ、私たち人間も活動ができません」
そう指摘する通りで、
「ミトコンドリアは、エネルギー不足の状態を作ってあげれば活発に活動します。エネルギーはアデノシン三リン酸(ATP)という物質であり、体内のエネルギーが消費されてこのATPがアデノシン一リン酸(AMP)という物質に変わると、エネルギー不足の状態になる。運動したり空腹状態にしたり、寒さに身を置いてこの状態にすることで『PGC-1α』という、ミトコンドリアを活性化させる“司令塔”であるたんぱく質が動き出すのです」
その上で、あらためて先述の「運動」「空腹」「寒さ」の重要性を説くのだ。
「運動して心臓の鼓動が早まったり息が切れたりするのは、酸素を多く取り込んでエネルギーを作ろうとしているからです。かつては『1日に1万歩歩きなさい』などと言われましたが、現在はそれだけでは何の意味もないことが分かっています。実は、速く歩いてゆっくり歩く、を繰り返す『インターバル速歩』が効果的なのです」
緩急をつけることで、無理なくエネルギーが枯渇した状態を作ることができるというのだ。続けて、
「カロリーを制限し、空腹の状態を作り出すことです。摂取カロリー3割減を目安に、腹八分目くらいの食事を心がけてください。そして寒さですが、10℃くらいの水温で寒中水泳をしたり、寒い場所で乾布摩擦をしたりするのが効果的です。また、水素を摂取するとミトコンドリアは活性化しますし、栄養ドリンクなどに含まれているタウリンもミトコンドリアを稼動させる成分の一つとして働くので、運動後に摂取するとよいでしょう。暖かい部屋で“食べては寝る”の生活をしていてはいけません。これから寒くなりますが、コロナ禍の巣ごもり生活には気をつけたいところです」
国内の百寿者は先ごろ、初めて8万人を超えた。1万人を超えたのが1998年だというから、医学の進歩を如実に物語る数字ではある。それでも中尾教授は、
「“不老不死”は人類の見果てぬ夢ですが、実現はおそらく難しいでしょう。これまで述べたように、老化を止めると今度はがん化が起こりやすくなる。私たちは老化そのものを止めるのではなく、また若返りを求めるのでもなく、健康寿命を延ばすような社会を目指しています。細胞老化のメカニズムを解き明かし、それを上手にコントロールすることで、加齢性疾患の制御や予防が可能になるのではと考えています」
齢を重ねながらも、老化を遠ざける余地は大いにあるというのだ。
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