「大嘗祭」供え物は誰の手に? 食品ロス回避で初めて国民へ提供

国内 社会

  • ブックマーク

 瑞々しい稲穂が実る国という意味を持つ「瑞穂国」は、我らがニッポンの“美称”である。各地の田圃は黄金色に染まり、稲の収穫も佳境を迎えているが、その「お米」が主役となった宮中祭祀の大嘗祭(だいじょうさい)が行われてからまもなく1年。お供え物の行方を辿ってみると……。

 ***

 新天皇即位に伴う昨年11月の大嘗祭において、皇居には全国各地の特産物が集められ、神前に「庭積机代物(にわづみのつくえしろもの)」として供えられた。

 今年9月23日付の東京新聞が、情報公開請求で入手した資料を基に報じたところでは、供え物や祝宴で展示するため集められた食品の購入額は429万円。うち170万円相当が初めて“再利用”されたという。

 宮内庁担当記者の解説。

「平成の大嘗祭では、供え物は『埋納(まいのう)』といって、全て皇居の地中に埋められました。自然に返すという意味合いがあったそうですが、令和の今回は昨年10月に施行された食品ロス削減推進法の趣旨に則り、国民へ譲り渡すことになったのです」

 確かに前述の記事では、集められた品の中には、〈京都府の「アカアマダイ」(60尾で48万6千円)や、石川県の「輪島海女採(あまど)りアワビ」(20個で20万円)などの高級食材もあった〉とあり、習わしとはいえ土に戻すには惜しい気もするのだ。

「『共食』といって、天皇陛下が神様に供えた食物を口にして、その力をいただく意義も大嘗祭にはあります」

 とは、平成、令和の大嘗祭に携わった元宮内庁掌典職の三木(そうぎ)善明氏だ。

「天照大御神の孫が大和の地に降りる時、国中に播いて広めよと授けられたのが稲穂でした。そのため大嘗祭では米が重要視されており、新穀を神々に供えて新天皇自身もそれを食する。気軽に誰もが食べられるものではありません」

 だが、フードロスをなくしたい世の風潮で、前例を覆し“お裾分け”されることになったのである。

「特上の味」

 前出の記者が言うには、

「昨年の大嘗祭終了後、宮内庁は供え物を埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンターに一括提供すると発表しました。国費で購入したものですから民間施設に譲渡するにはハードルがあり、衛生上の観点からも関東近郊であることを鑑みて決めたそうです。障害者の自立支援を目的としたセンターは、昨年創立40周年を迎えて、今年1月には天皇皇后両陛下も訪問なさっています」

 実際にはどのように料理されたのか。譲渡されたセンターの担当者に尋ねると、

「高級食材の魚やアワビは生物(なまもの)ということもあってかこちらには届いていません。頂戴したのはお米や、伝統野菜である堀川ゴボウや鹿ケ谷カボチャに大豆やシイタケなどもありました。カボチャはひょうたんのような形をしており、調理人は見るのも初めてでびっくりしていました。大豆は煮物に利用しましたが、戻すと大きくてボリュームがあった。お米も炊くとふっくらつやつやで、特上の味だったと調理人が話していましたよ」

 センターでは、施設の利用者に向けた一般給食として、食堂の通常メニューの中にそれらの食材を活用した。ただし利用者への告知はなかったから、誰の口に入ったかは定かでないとか。そうと聞けば、なんだか今日のお米は一味違うなと思っても、さすがに“天からの授かりモノ”だとは気づかなかったに違いない。

週刊新潮 2020年10月8日号掲載

ワイド特集「ご利益にあずかりたい」より

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。