関西人はなぜ「半沢直樹」に熱狂したのか

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朝ドラは「逆」

 さて、「半沢直樹」の視聴率は西高東低だったが、近年のNHK朝の連続テレビ小説はまるで逆だ。関西が関東の視聴率を上回ることが滅多になくなってしまった。

 NHK大阪放送局が制作し、関西を舞台にした物語にしようが、視聴率が取れなくなった。異常事態と言ってもいいくらいだ。

 以下、近年の朝ドラの平均世帯視聴率である。

■2013年度上半期「あまちゃん」主演・能年玲奈(現・のん、27)、主な舞台・岩手と東京、関東地区20・6%/関西地区で16・9%
■同下半期「ごちそうさん」 同・杏(34)、同・東京と大阪、関東22・4%/関西地区21・8%
■2014年度上半期「花子とアン」同・吉高由里子(32)、同・山梨と東京、関東地区22・6%/関西地区21・6%
■同下半期「マッサン」同・玉山鉄二(40)、シャーロット・ケイト・フォックス(35)、同・大阪と北海道、関東地区21・1%/関西地区22・2%
■2015年度上半期「まれ」同・土屋太鳳(25)、同・石川と神奈川、関東地区19・4%/関西地区18・6%
■同下半期「あさが来た」同・波瑠(29)、同・京都と大阪、関東地区23・5%/関西地区21・4%
■2016年度上半期「とと姉ちゃん」同・高畑充希(28)、同・静岡と東京、関東地区は22・8%/関西地区20・4%
■同下半期「べっぴんさん」同・芳根京子(23)、同・兵庫と大阪、関東地区20・3%/関西地区20・2%
■2017年度上半期「ひよっこ」同・有村架純(27)、同・茨城と東京、関東地区20・4%/関西地区20・3%
■同下半期「わろてんか」同・葵わかな(22)、同・京都と大阪、関東地区20・1%/関西地区は19・6%
■2018年度上半期「半分、青い。」同・永野芽郁(21)、同・岐阜と東京、関東地区21・1%/関西地区は19・3%
■同下半期「まんぷく」同・安藤サクラ(34)、同・大阪、関東地区21・4%/関西地区19・5%
■2019年度上半期「なつぞら」同・広瀬すず(22)、同・東京と北海道、関東地区21・0%/関西地区18・3%
■同下半期「スカーレット」同・戸田恵梨香(32)、同・大阪と滋賀、関東地区19・4%/関西地区18・6%
■2020年度上半期「エール」同・窪田正孝、同・福島、東京

 この中で唯一、関西の世帯視聴率が関東を上回っているのは2014年度下半期の「マッサン」。図らずもニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝氏(劇中では玉山鉄二が演じた亀山政春)をモデルにした立身出世物語である。

 前半で政春が大阪の「鴨居商店」に就職し、ウイスキーづくりに励むという設定も関西人には身近で良かったのではないか。鴨居商店のモデルは鳥井商店で現在のサントリー。政春にウイスキーづくりを託した鴨居欣次郎(堤真一、56)のモデルは同社創業者の鳥井信治郎であり、やはり立身出世の人である。

 となると、大阪が発祥の地である日清食品の軌跡を辿った「まんぷく」はどうして関西地区の視聴率が東京を超えなかったのか。それは、主人公が創業者の安藤百福氏をモデルにした立花萬平(長谷川博己、43)ではなく、妻の仁子さんを象った今井福子(安藤サクラ、34)だったことも一因だったのかもしれない。その分、立身出世物語色は薄らいでいた。

 立身出世物語は古いのかも知れない。ド根性物語も。けれど現実社会は生まれながらにしての上級国民がなぜか増え、夢が持ちにくくなってしまったので、ドラマにはもっと成功譚があってもいいのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月7日掲載

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