関西人はなぜ「半沢直樹」に熱狂したのか
「半沢直樹」(TBS)の夏が終わり、いつもより淋しく感じる秋が来た。このドラマの全10話のうち、いずれかをリアルタイムで視聴した人は6658万8000人にも達したという(ビデオリサーチ調べ、以下同)。その中で最も熱狂したのは関西人だったようだ。
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「半沢直樹」の主な舞台は東京中央銀行と東京セントラル証券だったのは知られている通り。もっとも、全国で一番高い世帯視聴率を得たのは毎日放送が放送した関西地区だった。
9月27日放送の最終回の世帯視聴率を地区ごとで見てみると、関東が32・7%で関西が34・7%。さらに札幌が34・4%で名古屋が33・0%、北部九州が32・1%だった。
「半沢直樹」における世帯視聴率の西高東低は最終回ばかりではない。7月19日放送の初回は関東が22・0%で関西が23・3%。以後、関西のリードが続いた。
7年前の前作も全く同じだった。関東は最終回で42・2%という驚異的数値をマークしたが、関西はそれを上回る45・5%を記録。関西でオンラインによる世帯視聴率のリアルタイム測定が始まった1980年以降、民放ドラマで最高値だった。
「単に関西人はドラマが好きなのでは」と思われる人もいるだろうが、それは違う。例えば同じTBSのヒット作「私の家政夫ナギサさん」の最終回の世帯視聴率は関東が19・6%で関西は17・3%。同じく「MIU404」の最終回は関東が14・5%なのに対し、関西は13・5%。どちらも関東が上だった。
関西人は「半沢直樹」びいき。そう考えられるだろう。このドラマに限らない。関西人は立身出世物語を好むようだ。
「どてらい男」が人気に
かつて関西人は滋賀県大津市生まれの脚本家である故・花登筺氏(1983年没)の立身出世ドラマに熱狂した。「細うで繁盛記」(1970、日本テレビ系)など、主人公が逆境に打ち克つド根性物語でもある。中でも人気を博したのは「どてらい男」(1973)だった。
このドラマは西郷輝彦(73)が主演し、フジテレビ系の関西テレビが制作した。関東でも高視聴率だったが、関西では人気が沸騰。どんな物語だったかというと、コネも学歴もない主人公のモーやんこと山下猛造が、大阪の機械工具販売店の丁稚見習いを振り出しに出世街道を驀進する。やがて独立し、成功を収めた。
モーやんは一本気で誰にも媚びない性格だったため、先輩から意地悪をされることもあった。取引先から嫌がらせも受けた。苦難の連続だった。けれど持ち前のバイタリティーと知恵で障害を次々とはねのけた。絶対に屈しなかった。
なにやら半沢直樹(堺雅人、46)を思わせる。そう考える人は少なくなかったらしく、中高年のSNSユーザーは以前から「モーやんと半沢は重なり合う」という声を次々と上げていた。半沢は最終学歴こそ慶大経済学部という設定だが、自分の力で道を切り拓いた点ではモーやんと同じだ。
ちなみにモーやんにはモデルがいる。工作機械から家具、家電品まで幅広く製造するメーカー「山善」を興した故・山本猛夫氏である。モーやんの歩みは山本氏の生涯に近いとされている。
「半沢直樹」が三菱銀行(当時)出身の池井戸潤氏(57)によって書かれたためにリアリティーが保たれていたように、「どてらい男」もモデルがいたから、現実味が損なわれなかった。
同じ池井戸氏が原作を書いたビジネスドラマでも「下町ロケット」(TBS、2015)は関東のほうが世帯視聴率は上だ。平均世帯視聴率は関東が18・5%で関西は14・8%なので、随分と差が開いた。
町工場である佃製作所社長の佃航平(阿部寛、56)が技術力と誠実さで大企業に一泡吹かせるという筋書きだったのは知られている通り。痛快なストーリーであるところは「半沢直樹」と一緒なのだが、立身出世物語ではないので関西の視聴者には物足りないのかもしれない。
なぜ、関西人は立身出世物語を好むのだろう。もしかすると、関西の偉人・松下幸之助氏の存在が影響しているのかもしれない。言わずと知れた松下電気器具製作所(現パナソニック)創業者。小学校中退の学歴ながら、努力を重ね、苦労を惜しまず、大阪市内で興した家内工業を世界的企業に発展させた。立身出世を絵に描いたような大人物である。
活躍の場はビジネス界にとどまらず、PHP研究所をつくり、倫理教育にも力を入れた。理想の政治家育成にも乗り出し、松下政経塾も設立した。また、大阪を愛し、本社を決して移転しようとしなかった。
幸之助氏が関東人などより身近な関西人にとって、立身出世の人や苦労を乗り越えた人は魅力的なのかもしれない。
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