証拠改ざん「郵便不正事件」から10年 村木厚子さんと有罪“係長”の不可解な関係
欲しかった部下との会話
もう一つは、村木課長とK係長の間に多少ともコミュニケーションがあれば郵便不正事件自体が起きなかったという感慨だ。公判の傍聴中、筆者は「同じフロアに居てなんと二人にコミュニケーションがないのか」と首をかしげていた。普通の会社でも課長と係長なら、間に課長補佐がいてももうすこし会話があるはずと不思議だった。
前田と並び、悪質だった國井弘樹という検事に密室で脅され「課長が関わっている」と虚偽供述をさせられたKは法廷で気の弱そうな男に見えたが悪党には見えなかった。
慣れない予算関連の仕事が溜まり、凜の会に依頼されたことは後回しになった。会からせっつかれたKは上司に印鑑を押してもらうことが億劫になり、勝手に発行してしまったとされる。しかし「課長さん、印鑑押してください」とも言えない関係だったのか。もっとも村木氏が自ら精査すれば、凜の会が割引を使える証明書を発行するに値しない団体であることは判明しただろう。
村木厚子氏が出世欲から上ばかり見ていたとは思わない。ただ夫も同じ厚労省の審議官というエリートだった。それもあってか、大臣折衝や政治家との折衝などでそうした場に始終、駆り出されていたようだ。人柄もよく「働く女性の星」などと障害者支援団体などからも評判だった彼女を厚労省は対外的にも積極的に使いたかった。
しかし、結果的には仕事を抱え込んで悶々とする足元の部下に目を配れなかった。多忙な上、女と男だから気安く「Kさん、ちょっと飲みに行きましょうか」とはならなかっただろうが、もう少しKを見てやれなかったか。正直な村木氏はある日の法廷で「私がもっとKさんと話したりすればよかったのですが、忙しくてできなかった」とコミュニケーション不足を強く悔いていた。
筆者は当時からKが気になっていた。強引な取り調べはもちろん、「凛の会の申し出を受けてもさして個人的にメリットもないのになぜ、偽証明書なんか作ってしまったのですか」など、心情を聞きたく、ある時、大阪地裁の廊下でKに名刺を渡したが手を振って受け取ってももらえなかった。
逮捕時のKは40歳だったから今、50歳を過ぎた頃か。虚偽公文書作成・同行使罪の有罪確定で解職された。どこでどうしているのだろう。(一部敬称略)
[2/2ページ]