竹内結子さんの本当の魅力 コラムニストがもう一度みたい出演作品から探る

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2時間ドラマに99%の竹内結子

 竹内結子を悼んでもういちど観直したいドラマの2本目は、彼女の主演作ですが、連ドラではありません。2015年に放送されたフジの2時間ドラマ「上流階級 富久丸百貨店外商部」です。彼女は神戸の老舗デパートを舞台に、アルバイトから正社員に取り立てられるも、男だらけの外商部に回され、富裕層の顧客を営業で回るという役柄でした。

 いわゆる“デパガ”のような派手さはありません。だからといって肩で風切るキャリアウーマンというわけでもなく、客に対してソフトに接する役どころでした。この頃、竹内さんは30代半ばでしょうか。当時、彼女は番組PRでこう語っていました。

「99%、竹内結子が出ていますから。ずっと本当に出ていますから。買い物、生き方、お金、いろんな人生が見られます」

 トガったスーパーウーマンではない、ワタシたちの身の周り、あるいはそのちょっと先くらいにいるような女性を演じる彼女は、芸名の竹内結子とは違う、本名の竹内結子とでも呼ぶべき女性の魅力を発揮していました。

 一方、彼女が主演したりヒロインだったりしたドラマのうち、もっと目立った作品の中には、竹内が必ずしも輝き切れていないように思えるものが少なくありません。たとえば、「ストロベリーナイト」は、原作者の誉田哲也が松嶋菜々子をイメージして小説版の主人公・姫川玲子のキャラクターを作り上げたと明かすように、映像化する際の女優のファーストチョイスは竹内ではなかったかもしれない。

「A LIFE〜愛しき人〜」(TBS:17年)は、木村拓哉のSMAP解散後初の主演ドラマで、当時、誰もキムタクと組みたいとは思っていなかった時期の作品。そこにヒロインとして白羽の矢が立ったのも竹内でした。外から見ていると“困ったときの竹内頼み”に思えてしまうキャスティングが、けっこうあったんです。

 まだ今ほど売れていなかったTOKIOの長瀬智也が主役の「ムコ殿」(フジ:01年)も、彼の妻を演じる女優の配役が難しいドラマだったはずで、ここでも選ばれたのは竹内。抱かれたい男ナンバーワンの大スターが実は極秘結婚、しかも、庶民的な一家の婿養子だったという設定のコメディで、宇津井健演じる父のもと、長女が秋吉久美子、次女が鈴木杏樹、三女が篠原涼子、末っ子の四女が竹内でした。

 スター役の長瀬と対象的な一般人役というのは、なかなかのハマり役でしたが、ドラマそのものは、事務所から局からギョーカイが総出で長瀬を売り出そうとして作ったような無理のある作品でしたから、後の「A LIFE」同様、彼女にすれば、気の遣いどころの多い、大変な仕事だったと思います。

映画篇

 一方、映画ではまず、彼女のイメージを変えた「サイドカーに犬」(07年)を挙げましょう。05年に中村獅童と電撃結婚して母にもなり、さらに翌年には早くも不仲説が報じられて、竹内の独身時代の女優としてのパブリックイメージは当時、相当、毀損されていました。その彼女が文字どおり吹っ切れたように、サバサバした女を演じた作品でした。

 長嶋有の原作や予告篇などを知るかぎりでは違和感のあるキャスティングに感じられましたが、本篇を観てみると「おお、こういう竹内結子もありなんだな」と感心させられたものです。キネマ旬報ベスト・テンや日本映画批評家大賞などで、最優秀主演女優賞も獲っていましたね。

 そして、映画でも主演ではない作品を選んで申しわけありませんが、「殿、利息でござる!」(16年)の竹内もよかった。阿部サダヲが宿場町を立て直そうとする時代劇で、彼女は煮売り屋の女将を演じていました。“いい人”ばかりが出てくる世界の中で彼女もなんだか楽しそうでね。

 庶民的だけれど下品さはなくて、むしろ相当に上品。それが竹内結子の魅力だと、私は考えています。この映画には草笛光子も出演していて、竹内も歳を取ったら草笛のような女優になってくれるのではないかとさえ期待していたのですが……。

 さらに欲を出して、まだ観ぬ……というより、もう観ることの叶わぬ幻の仕事について語らせてもらうなら、映画版の「チーム・バチスタの栄光」「ジェネラル・ルージュの凱旋」で組んだ阿部寛と、「TRICK」(テレビ朝日)のようなユルくて笑える作品で共演する姿を、ぜひとも拝みたかった。彼女にはコメディエンヌとしての素地もかなりあって、それは数多く出演していたCMに、特によく表れていました。

 もうひとつ、母であることが大きな意味を持つ役どころも演ってもらいたかった(昨年公開の映画「長いお別れ」では思春期の男の子の母親を演じているようですが、作品のテーマは認知症とのことで、ワタシは未見です)。実生活でも2人の息子を育ててきた竹内が、気負いも衒いもなく飄々と母親を演じるようなドラマや映画。そういう作品は、もう勝手に想像するしかなさそうなことが、ものすごく残念です

 そう考えると、劇団ひとりを夫役に、寺田心を息子役に迎えて、のんびり幸せそうな家族を、のんびり幸せそうに演じていた「サッポロ一番」のシリーズCMもまた、ここまで紹介してきたドラマや映画と同じように、あらためて鑑賞したい彼女の代表作だと言えます。

 ゆっくりお休みください、竹内結子さん。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月5日掲載

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