「高齢ドライバー」の親に免許を返納させる具体策

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フット・イン・ザ・ドア

 こうして「返納してほしい」という気持ちを伝え、すんなり返納に至れば万々歳。しかし、そんな例は少数で、実際は、親の抵抗に遭うことがほとんどである。つい激しい言葉になってしまいがちだが、続く第2段階では、「即決を求めない」こと。焦らずじわじわ攻め込むことが肝要である。

 人間は年齢を重ねるごとに、感情や人格面で保守的な傾向が強まり、変化への対応が苦手になってくる。時間をかけてじっくり説得する必要があるのだ。ここで有効なのが、親を信頼し、「一度引く」ことだという。返納を勧めても色よい返事が返ってこない場合、「本当に気持ちが伝わっているのか」、「こうしている間にも事故が起きたら」といったネガティブな想像をしてしまいがちだが、ここで一度、考え直してみる。理屈や正論を振りかざして、言い合いになってしまえば、ますます意固地になる。相手を否定することなく、話を聴き、受け入れ、共感するのが大切だという。その上で、

「『フット・イン・ザ・ドア』という心理学のテクニックがあります」

 と志堂寺教授。「玄関のドアを閉められる前に、足を入れれば勝ち」という意味である。

「小さな願い事をした後で大きな願い事をすると、成功しやすくなる。あるエリアに住む人々の庭先に、『安全運転をしてください』と書かれた巨大看板を設置してほしいとお願いするという実験が行われた。事前に何の接触もしなかったエリアでお願いしたところ、大多数が断りました。しかし、その前に“街を美しく保ちましょう”という嘆願書への署名をお願いしたエリアでは、ほとんどの人が署名をし、看板の設置にも半数が賛同したのです」

 人は小さな頼みを受け入れると、「頼みを受け入れる自分」という自己イメージを崩したくない心理が働き、次の大きな頼みも断りづらくなる習性がある。スーパーで販売員に勧められて試食すると、ついつい購入まで進むのも同じ原理だ。

 これをどう応用するか。

「まず“病院で健康診断を受けてよ”“今すぐではなく、次の更新時には考えてよ”といった小さな頼み事をして、それを聞いてもらった後で徐々に本題に移ると、相手の承諾を得られやすいのです」

 更には、

「返納後の『車のない生活』をイメージしてもらうのも大切です。一定期間車に乗らず、説得相手と共に歩いて買い物に出かけてみたり、通販やスーパーの宅配サービスを利用してみたりして、“車がなくても大丈夫だ”と思ってもらうようにする。同時に、新しい趣味など、本人が車に代わる生きがいを見つけることに協力するのも有効です。“車に乗らなくなると老化が加速する”と訴える高齢の方もいますので、地域のサークル活動を探してあげたり、ウォーキングに付き合ってあげたりして、心身面のケアに配慮しましょう」

 ここからはラストスパートだ。

 第3段階だが、もうひと押し。短期集中、ドラマチックな工夫が必要となる。ひたすら説得あるのみだが、

「それでもなお、頑として聞き入れないようであれば、『泣き落とし』は有効な手段です。自分がどれほど親を思っているか、そして心配しているかを切々と訴える。“本当に私たち家族の気持ちをわかってくれているの!”“本当に心配しているんだよ!”“お父さんに死んでほしくないの!”など、時には本気で怒ったり、泣き叫んだりしながら説得を続け、成功した例もあります」

 この局面で、「入念な準備」について前述した、「返納後のサポートの準備」が生きてくるかもしれない。返納後の代案をいろいろ提示して本人の不安を解消する。同時に、「家族みんなで頑張ってこんなに案を準備したんだよ」と知ってもらうことは、スムーズな自主返納の近道になるのである。

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