コロナ特需にも乗れない「韓国」の苦悩 日本と中国の挟み撃ちのオートバイ市場

国際 韓国・北朝鮮

  • ブックマーク

アジア通貨危機以降はマーケティング活動を大幅に縮小

 一番の代表モデルであるシティーシリーズは、当初は日本仕様、のちにタイ王国仕様のスーパーカブを韓国向けにした商用オートバイで、驚異的な耐久性で人気を集めた。

韓国人には、新聞配達や中華料理配達用などでもっともなじみ深いオートバイである。

そのほか1970年代にはCB250が人気を集めたし、90年代にはリードやタクトなどの50ccスクーターが若者や地方に住む高齢層たちの日常の足として人気を博した。

 1990年代までのデリムホンダオートバイは、オートバイのトップメーカーとして、性能、耐久性、経済性共に高い評価を受けていた。

加えて人気俳優を起用したテレビCMを頻繁に流し、若者をはじめとした消費者にオートバイの魅力を訴求していたが、アジア通貨危機以降はマーケティング活動を大幅に縮小している。

 2004年にホンダとの技術提携を解消して以降は独自モデルを開発する一方で、中国のZongshen Motorcycle製オートバイのOEM販売や、台湾のキムコ製スクーターの輸入販売を行っている。

 KRモータースは、1978年に設立されたヒョースン(暁星)機械工業を前身企業とし、日本のスズキと提携を行い、ヒョースンスズキの名前でオートバイの製造販売を行っていた。

同社は独自設計エンジンの開発を行い、1988年には日本にオートバイを輸出するなど積極的に独自技術の確立や海外進出に取り組んでいたが、1997年12月に破綻。

その後、買収と売却を繰り返され、2014年コラオホールディングス(主にラオスでのビジネスを手掛ける韓国企業)に買収され、今に至る。

韓国の暴走族は必ず8月15日の光復節に暴走行為を

 90年代後半まで、かっこいいはずだったオートバイのイメージは、2000年初頭における暴走族の社会問題化により一変した。

 若者がオートバイを改造し、爆音を響かせて太極旗(韓国国旗)を振り回しながら蛇行運転をするさまは、日本のそれと似た雰囲気である。

また日本の暴走族が元旦という国民的祝日に暴走行為を行うのと同じように、韓国の暴走族は必ず8月15日の光復節に暴走行為を行っている。

 一方で日本の暴走族と異なるところと言えば、暴走の集団が日本と比べ小集団であることや、暴走行為に使われるオートバイのモデルについて、配達業務用の商用オートバイや国産250cc程度の安価なモデルが多く選ばれる点などがあげられる。

韓国の暴走族メンバーには、暴走行為のためだけにオートバイを購入、不法改造するような事はせず、仕事先の配達用オートバイを夜の間だけ拝借して暴走行為を行っている若者も少なくない印象である。

 非常に厄介なのは、韓国において「暴走族」という単語の意味が日本で言うところの暴走族、珍走団だけでなく、ワインディング族などを含めた広い意味を持っている事である。

深夜の蛇行運転も速いスピードで走るツーリングも危険なことに変わりはないという認識によるものである。

 2003年、オートバイの輸入規制が撤廃されると、それを待ちわびたかのようにスクーター・ブームが巻き起こる。

単純な移動手段としてではなく、ファッションや流行に敏感な若者達のおしゃれアイテムとして、レトロデザインのスクーターがもてはやされたのである。

 流行の主役はベスパやプジョー、アプリリアなどの欧州製スクーター、そしてホンダ・ジョーカーやヤマハ・ビーノなどの日本製原動機付自転車、そしてSYM・ミオなどの台湾勢であった。

一方でデリムも新製品(ボニータ)を投入するが、注目を集めることはできなかった。
 
しばらくすると中国製のコピースクーターが大量に市場に出回るようになった。

耐久性の悪化が顕著な韓国メーカー車

欧州製や日本製のそれとほぼ同じ外観に低価格を実現した中国製スクーターは、一時的に大きな人気を集めたが耐久性に難があり、痛い目にあった消費者たちはスクーターの所有自体をあきらめてしまい、スクーター・ブームも数年で収束してしまう。

しかしこのブームで多くの韓国人がついに海外製オートバイの魅力を知ってしまったといえるだろう。

 2004年にホンダとの技術提携を解消して以降、デリムオートバイでは中国製オートバイのOEM販売が増加する傾向にある。

例えば先に述べたシティーシリーズの新型は、スズキのグループ会社である常州豪爵鈴木摩托車有限公司のモデルのOEMであるし、やはり中国のZongshen Motorcycleとも技術提携を結んでおり、Zongshenが開発・生産した複数モデルのOEM供給を受けている。

特に2018年にデビューしたデリムのベストセラー電動バイク、ゼッピーはZongshen  CINECO T3をOEM供給されたものである。

KRモータースも近年は台湾SYM社や中国Jinan Qingqi社のオートバイをOEM方式で販売している。

 この結果、特にデリム社のオートバイについてはホンダとの提携時代と比べて耐久性が落ちたというのがマニアを中心とした市場の声である。

かつてデリムホンダを愛していた彼らは、今のデリムよりも日本のホンダを買った方が賢明であると異口同音に述べている。

 また価格重視なら、デリムやKRのバッジがついた中国オートバイよりもズバリ中国ブランドの中から信頼できるオートバイを選んだ方が賢明との声も少なくない。

最近は顧客に、日系メーカーと技術提携をしている中国メーカー製オートバイを薦めるバイクショップも出てきている。「昔のデリムホンダやヒョースンスズキと同じですよ。だから安心」というのがセールスポイントだ。

 日系の耐久性にも中国のコスト競争力にも太刀打ちできない韓国オートバイ・メーカー。

今後、限られた資金と市場の中で、どのように生き残っていくのか。重大な岐路に立っている。

おさぴょん
会社員として働く傍ら、2002年より韓国の雑誌でライターとして活動中。主に韓国、台湾、タイなどの自動車産業やエンタメについての記事を配信している。

週刊新潮WEB取材班

2020年10月4日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。