ノブコブ徳井が恩人・東野幸治を「腐り狂った超天才」と評する理由とは

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「喫茶店のマスターになれ」

 番組途中で東野さんが「徳井くんの悩みはなんかないの?」と聞いてきた。僕はしばらく唸り、絞り出そうとしたが結局「ない」と答えた。

 正直僕には欲がない。売れたいとか、金持ちになりたいとか、良い服が欲しいとか、そういうのがほとんどない。だから伸び伸びやれている、つもりだった。

「じゃあ何をモチベーションにしているの?」

 東野さんの疑問も当然だと思う。僕のモチベーションは、自分が才能あると思う先輩や後輩が売れることだと答えた。と同時に、自分の中にあった少しの不満を、心の端っこに見つけた。

「もっと影響力を持って、好きな先輩や後輩を助けることができたらなぁ、と思います」

 小さな二人きりの空間に本音が落ちる。それを東野さんはすぐに拾った。

「え? どういうこと?」

 例えば相方の吉村とか、千鳥さんとか、渡辺直美とか、そんな売れている人たちが「あの人は面白い」と言えば、売れていない芸人も世の中の人達に見つかる可能性が高いのに、僕がそういったことを呟いても、ほとんど効力がない。なんて自分は無力なんだと痛感する。

 恥ずかしい気持ちも忘れてそう答えた。

 すると1秒もたたないくらいのスピードで東野さんは「喫茶店のマスターみたいになったらええんちゃうの?」と返してきた。急なことで僕のちんけな脳みそでは理解できなかったが、そんなキョトン顔を見て東野さんはゆっくり説明を始めてくれた。

 一般的に、喫茶店のマスターに社会的な影響力は残念ながらない。でも、あったかくて美味しいコーヒーを出すことはできる。困っている若手や伸び悩んでいる先輩の話を聞いたうえで、彼らにあったかくて美味しいコーヒーを出してあげる、そんな存在になったらええんちがう? もし他人が、それこそ相方の吉村くんがテレビで、徳井くんが悩みを聞いてあげていた若手を紹介して、その人が結果売れたとしても吉村に嫉妬なんかせず、あー良かったなーなんて思いつつコーヒーカップでも磨きながら、また訪れるであろう客人を待つ。そんな人生最高やん?

 僕は、ぐうの音も出ず、ラジオなのにただコクリと頷いた。

 その後無事、天津の木村さんも復帰して、東野さんのラジオは一旦終了することになった。何度かしか出ていないのに、そのラジオの打ち上げに僕も呼ばれた。木村さんや桂三度さん、東野さんと肉を食べながら酒を飲む。『ごっつええ感じ』でアイデンティティーを形成したあの頃の僕は、今の状況を見て何を思うだろうか……。きっと嬉しすぎて信じられない気持ちだろう。

 ところが現在の徳井おじさんは、その打ち上げで東野さんに図々しくも、とあるお願いをしてみた。

「僕のやっている『酒と話と徳井と芸人』という YouTube にゲストで来てくれませんか?」

 それは中野の居酒屋で、酒を飲みながらただただお笑いを語るという番組。映像は使わない。ギャラも冗談みたいな金額で、収録もマイクを2本だけ立てた簡易的なもの。そこに天下の東野幸治を呼ぶ。とんでもない奇行だ。だがすぐに「ええで」と言って東野さんは目の前のナムルを口に運んだ。

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