一世を風靡した女たちの消息 「榎美沙子」「ケバルト・ローザ」「やまのべもとこ」
警察署員を名乗る男から「前妻逮捕」の電話
「ウーマンリブ」という言葉が流行語となったのは、大阪万博が開催された昭和45年。「シラケ世代」が台頭し、「未婚の母」も登場。人々は「モーレツからビューティフルへ」を合言葉に歩行者天国を闊歩し、「昭和元禄」と呼ばれた時代を謳歌していた。そんな時代に現れたのが「翔んでる女」たち。「人類の進歩と調和」を目指して、翔んだり跳ねたり……。
(※「週刊新潮」2001年8月16日号に掲載された記事を編集し、肩書や年齢などは当時のものを使用しています)
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医師である木内夏生(60)のもとに、熊谷警察署員を名乗る男から電話があったのは、2カ月前のことである。
「前の奥さんを恐喝容疑で逮捕しました。そのことで少しお話を伺いたい」
男はそう言った。
「いま、そちらにいるのですか」
「男と一緒に捕まって、留置場におります」
職業柄、警察からの電話に慣れていた木内は、どうもおかしいと直感した。
離婚後、前妻とは没交渉になっていたが、彼女は語学に堪能で、英語とドイツ語、ロシア語なら翻訳もできるほどだった。その上、薬剤師の資格も持っている。そんな女が金ほしさに恐喝や詐欺を働くとは思えなかった。
「こちらからかけ直しますので番号を教えて下さい」
木内がそう言うと、電話は一方的に切られた。
……とまあ、ミステリーのような書き出しになってしまったが、実際、これはちょっとしたミステリーなのである。
木内の前妻は、かつての「中ピ連」のリーダー、榎美沙子(56)である。
昭和33年頃までに物心のついた日本人で、榎美沙子を知らぬ者はあるまい。ピンク色のヘルメットをかぶって男を斬りまくり、マスコミに出ずっぱりだった女性である。
「女を泣き寝入りさせない会」の「シュプレヒコール!」「全財産をよこせ!」
その榎美沙子が消息を絶ち、親族によれば、「警察に捜索願を出している」状態だという。あれほどしゃしゃり出るのが好きだった女が、である。やはり、これは一つのミステリーといえよう。
中絶禁止法に反対し、ピル解禁を要求する。それゆえに「中ピ連」と名乗っていたのだが、それだけなら別にどうということはない。
だが、ピンクのヘルメット集団の活動はどんどんエスカレートし、榎は「女を泣き寝入りさせない会」なるものを組織。「騙された」という女の訴えを受けて男の職場に押しかけ、「慰謝料を出せ」と騒ぎ立てたりしていたのである。
思えば、「中ピ連」というのは分りにくい団体であった。
「ウーマンリブ思想にマインドコントロールされた女権真理教」(当時を知る記者)
と思えば分りやすいかもしれない。何しろ、「中ピ連」に「睨まれた男は、社会的にポアされてしまうのである。
一例を挙げよう。これは昭和49年8月19日の「中ピ連」の活動である。『ヤングレディ』50年1月13日号を引用してみると、
《事件は夏の通り雨のよう突然やってきた。大挙21人の女性たちが某社の営業所前に押しかけたのである。女性たちはヘルメットをかぶっていた。ヘルメットには、生物学でメスを意味する「♀」の記号が、ペンキで黒くかかれていた》
《竹ざおつきの大きな字幕を営業所の前で広げると、そこには「女を泣き寝入りさせない会」と大書してある。突如、》
《「シュプレヒコール!」
「全財産をよこせ!」
ハンドマイク片手のリーダーに唱和し、全員が気勢をあげる》
《プラカードを持つ者もいた。
「夫の横暴は許さない」
「恨みはらさでおくものか」》
《営業所長は、当然、何事かと玄関前に飛び出してきた。
「一体全体、何事ですか。あなたたちは何者です?」
今となってはその名を聞かなくなったが、往時の総会屋よりもタチの悪い連中なのである。
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