菅総理が挑む“携帯値下げ” 「最大の壁はテレビ局」の理由

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「菅総理が私の本を持ち歩かれていたと新聞記者さんから聞きました」

 そう語るのは『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮新書)の著者・山田明氏だ。NTTを経て、総務省系シンクタンクの役員などを歴任してきた氏は、新政権が標榜する「携帯電話料金の値下げ」に期待を寄せる。

「料金が下がらないのは、ドコモ、au、ソフトバンク3社の寡占体制が長く続いているからです。周知のように2018年夏、当時の官房長官だった菅さんが携帯の利用料を“4割下げる”と発言して流れが変わったものの、相手は民間ですから値下げを強制することはできませんでした」

 とは山田氏の解説。

「そこで一つの方策として消費者が格安の通信事業者に乗り換えていくのを促すことにし、国は契約の2年縛りを見直し、解約時の違約金を引き下げるなど環境作りを進めてきました」

 だが何しろ着手されて間もない。3社の牙城を揺るがすにはいたっておらず、

「料金を下げるには格安スマホではない、3社と並ぶフル規格の新規事業者を参戦させ、競争を活性化していく方法が考えられます。まずは“第4の事業者”として楽天モバイルが4月に稼働を始めています」

 楽天が掲げた“データ使い放題で月額2980円”という料金は、大手3社のざっと半額。しかし、だ。

「サービスはエリア限定で、そもそも“公正な競争”になっていないのです」

 と山田氏は指摘する。

「大手3社と楽天とは総務省から割り当てられている周波数に違いがあるのです。3社の周波数はプラチナバンドと呼ばれる低周波の電波で、一つの基地局でカバーできる範囲が広い。一方の楽天は使い勝手で劣る高周波。基地局がカバーする範囲が狭く、多くの基地局が必要で、建設コストがかかる。よって全国展開にも時間を要します」

 新任の武田良太総務相による「公正な競争環境を整備する」との発言は、この“周波数格差”の是正を意図したものと山田氏は見る。

「実は放送業界に割り当てられているプラチナバンドのうち、1割ほどしか有効活用されていないとの研究者の分析もあります。電波の区画を整理すれば、現在通信業界で使われる総量とほぼ同じ容量を捻出できると言われています」

 だが放送業界にとって通信やネットは商売敵。優良電波を“分け与える”ことへの抵抗は必至だ。だからこそ、と山田氏は言う。

「まずは総務省にテレビ用電波の活用状況を情報公開させることが一番重要。すべてはそこからですね」

 菅総理の決断が待たれる。

週刊新潮 2020年10月1日号掲載

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