危険運転致死罪で捜査の熊谷・小4死亡ひき逃げ 10万台の車調査の母「必ず犯人探し出す」

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コロナに負けじと懸命な遺族活動

 国を動かそうと懸命に奔走する代里子さん。今年4月には、東京・永田町で開催された国会議員らの交通安全議員連盟の総会に出席し、時効撤廃などを求める嘆願書を提出した。

 その後も、国家公安委員会委員長や法務大臣の元を訪れ、時効撤廃を直接訴えることも模索したが、新型コロナウイルスの感染リスクを考え、国家公安委員会委員長や法務大臣宛てに嘆願書を郵送した。

 孝徳君の事件についてもブログやツイッターを更新するなどして情報提供を呼びかける日々を過ごし、命日の9月30日には、警官らと共に熊谷市内でビラ配りをし、地元のFMラジオ局「FMクマガヤ」に生出演して自らの言葉で情報提供を呼びかけた。

 ネット上の署名は、昨年6月以降で5万件を超え、書面で集まった署名も合わせると計6万件近くに上っている。

 代里子さんの熱心な思いは国に伝わっているようだ。今年8月25日に警察庁に対しても嘆願書を送り、ひき逃げ事件については全国的に危険運転致死傷罪を適用して捜査すべきだと要望したところ、警察庁交通局から9月10日に以下のような回答書が送られてきたという。

警察庁が異例の反応を示した理由とは

「ひき逃げ事件の場合、発生直後の段階では、直ちに事故の態様が明らかとならないことから、初動捜査の段階においては、過失運転致死傷罪のほか、危険運転致死傷罪も視野に入れ、判明した現場の状況や目撃者証言等の客観的事実に基づき捜査を進めております」

 事件・事故の遺族らが国に対して嘆願書などを提出して法改正等を訴えることは珍しくはないが、国側が今回のように文書で具体的に回答するケースは異例だ。警察庁から「危険運転致死傷罪も視野に入れて捜査に臨む」という姿勢を引き出せたのは、代里子さんの熱心な遺族活動の賜といっても差し支えないだろう。

 ただ、代里子さんは「警察庁の誠実な対応には感謝したい」としながらも、警察庁の回答にある「目撃証言等の客観的事実に基づき捜査」という文面には懸念を示しており、「未解決のひき逃げ事件は、孝徳の事件のように目撃証言や客観的事実が全くないケースだってある。ひき逃げ事件は原則、危険運転致死傷罪を適用すべきだ」と訴えている。

 危険運転致死傷罪は、「アルコール又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で運転」などを立証する必要があるため構成要件のハードルが高いとされるが、昨年に検挙された死亡ひき逃げ事件128件のうち1割近くは実際に危険運転致死傷罪が適用されており、ひき逃げ事件を原則、危険運転罪で捜査するというのは非現実的なことではないだろう。

 死亡ひき逃げ事件の時効撤廃についても然りだ。

 そもそも、刑事事件に公訴時効が存在する理由は、「長い年月が経過し、証拠が散逸して立証が困難になる恐れが強い」「長期間の逃亡生活で犯人に事実上の社会制裁がなされている」などが挙げられるが、遺族感情への配慮やDNA鑑定技術の進歩などを背景に、改正刑事訴訟法が施行された 2010年4月以降、殺人罪や強盗殺人罪など人を死亡させた罪のうち、最高刑が死刑となる罪では時効が廃止された。

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