コロナで自殺が増える理由 女性へのダメージが深刻で…

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大半は女性の雇用減

 ところで、先に触れた1849人という8月の自殺者数だが、内訳にさらなる異変が読みとれた。男性が昨年比60人増えて1199人だったのに対し、女性は186人も増えて650人になっていた。女性の増加が目立ったのだ。これに関し、前出の永濱氏は示唆に富む話をしていた。

「リーマンショックの際は、大企業の製造業や建設業などがダメージを受けて男性の失業者が増え、“男性不況”といわれましたが、新型コロナショックでは、男性よりも女性の雇用が悪化しました。一つは、景気が悪化すると非正社員から整理されますが、そこでは女性の割合が高かったから。もう一つは、感染対策で人の移動や接触を伴うビジネス、つまり宿泊や飲食業、観光業などが壊滅的なダメージを受けましたが、そういう業種は女性の雇用が多かったから。中小企業のサービス産業がダメージを受けたため、女性の雇用を直撃したのです」

 この傾向について、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が掘り下げてくれる。

「女性活躍を掲げた安倍政権の下、女性の就業者数は2013年の2707万人が、19年には2992万人に増えました。この間、女性の雇用者も307万人増えましたが、57%に当たる176万人は非正規雇用者で、コロナショックの影響を一番受けたのも、雇用の調整弁に使われやすい非正規雇用の労働者でした。結果、非正規雇用者の総数は今年3月の2150万人が、7月には2043万人にまで減り、減少した107万人の内訳は、男性19万人に対し、女性は88万人と大半を占めました。派遣労働者も同様で、3月に91万人いた女性の派遣労働者は7月に80万人と、11万人も減っています」

 女性の非正規雇用が目立って減った理由だが、

「3密を回避するために事業縮小を余儀なくされた飲食店や小売店のパート従業員、アパレルなどの販売員、観光業従事者など、女性が占める割合が高い業種から雇用が失われたから。安倍前総理は“非正規という言葉を一掃する”と言っていましたが、非正規雇用自体が失われてしまった。また労働政策研究・研修機構の調査によれば、休業の影響も女性のほうが受けやすかったようです。4月時点での休業者は、男性は全体の1・6%にすぎなかった一方、未成年の子どもを抱える女性は7・1%、母子家庭で家計を支える女性は8・7%。子育てに追われる女性、シングルマザーの多くが、学校も休校になり働けなくなっていました」

 むろん、そういう女性に非正規雇用者が多い。女性にかぎらない一人親世帯の苦境について語るのは、「東京家族ラボ」を主宰する家族問題コンサルタントの池内ひろ美さんで、

「一人親世帯は、18歳までの子どもの医療は助成などが手厚いですが、親の医療への福祉保障が薄いと感じます。病気やけがをした子どもに付き添う間の収入補償もなく、子どもの将来への不安も絶えません。コロナ禍で、健康、経済、子どもの将来という不安すべてが、一人親世帯にデフォルメされて表れています。休校による負担も大きく、食費はもちろん、オンライン授業用のPC購入等が負担になっている世帯も多い。そのうえ父子家庭と母子家庭で、平均年収も異なります」

 ちなみに厚労省の調査では、16年度の就労所得中央値は、父子家庭の350万円に対し、母子家庭は169万円。コロナ禍はそんな母子家庭を直撃したようだ。現に、母子家庭の18・2%が食事回数を減らしている、という調査結果もある。また、日本総合研究所チーフエコノミストの枩村(まつむら)秀樹氏は、こんな見解だ。

「コロナ禍で一番打撃を受けたのが夜の街でしたから、そこで働く女性が追い詰められ、自殺に追い込まれたという可能性もある」

 テレワークが進んだことでも女性は追い詰められたようで、溝上氏が言う。

「結果、IT業界などで雇用の需要が高まりましたが、そもそも理系の大卒女性が少なく、専門的な知識や技術が必要なこともあり、女性の雇用吸収力はそれほどでもなかった。それに、スーパーの店員や販売員、介護士や看護師など、社会に不可欠なエッセンシャルワーカーは、現場に行かなければ仕事ができません」

 加えて、人と接触できなくなった人がうつになるなど、テレワークの普及は女性をはじめとする弱者には、キツかったと言うほかない。

「小池さんの顔を売るために」

 そんな折も折、9月20日付の読売新聞朝刊(東京版)に「テレワーク時代 到来」と題する、テレワーク絶賛の全面カラー広告が掲載された。東京都による出稿で、小池知事と島耕作氏の特別対談という体裁がとられていたが、小池氏の顔が選挙広告のように大写しになる一方、島氏は写真でなく絵であった。それもそのはずで、島氏は実在の人物ではなく、弘兼憲史作の人気マンガの主人公なのである。

 しかも対談は、小池知事のプロパガンダであるかのように彼女が一人称で、知事としてテレワークをいかに推進してきたか、「手柄」を延々と語る。一方、「経営のプロ」であるはずの島は、なぜかひたすら聞き役だ。小池知事の話は、たとえばこんな具合であった。

〈私は、4年前に都知事に就任以来、ICT技術の進展も踏まえ、世界で進んでいるテレワークの推進に取り組んできました。都内企業のテレワーク導入率は、コロナ感染症拡大前の今年3月、24・0%でしたが、政府による緊急事態宣言後の4月には、62・7%にまでアップしました。一方、宣言の解除後には、これまで通りの出社勤務に戻す企業も出てきており、このままでは、以前の姿に戻りかねないと危惧しています〉

 要は、自分はコロナ以前からテレワークを推し進め、緊急事態宣言を受けて時流に乗ったが、自粛解除の流れのなかで元に戻る兆しもあって心配だ、と訴えるのだ。そこにはテレワークのデメリットへの考察や、端からテレワークが不可能な職種への配慮は、微塵もない。前出の池内さんは、こう苦言を呈する。

「小池知事の政策には“家族を守ろう”という視点が欠けています。テレワークを進めるなら、家事や子どもへの手当ても必要です。みんなが家にいるようになって、負担が一番大きくかかっているのは、妻であり母なのですから」

 また、東京都の元幹部職員で、『築地と豊洲』の著書がある澤章氏は、

「いつもの流れからすると、この広告も“打て”という小池知事の指示のもと、どこかの代理店を通して打ったのでしょう。コロナがどう振れるかわからない微妙な時期に、マンガの主人公と対談して“テレワークにしましょう”とアナウンスするのは、都民の気持ちとズレていると思います」

 と言い、こう続ける。

「都道府県の産業政策では、地元の中小企業をどう支えるかが中心に置かれるべきで、大企業やグローバル企業を相手にするのは国の役割。そもそも接客を伴う業態などは、テレワークはできません。コロナで苦しんでいる中小企業が多いなか、ファッショナブルに“テレワーク推進”なんて話ではないはず。小池さんの顔を売るために、こんなところに千万単位のお金をかけるのもわかりません」

 自己PR広告に費用を投じるくらいなら、少しでも弱者救済に当てたらどうか。医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏は、

「8月に自殺者が15%も増えたのは相当なこと。困っても声を上げられない人が大勢いるということで、そういう人たちに社会全体が手を差し伸べるような心遣いができたらいい」

 と話すが、小池知事にはそういう声が耳に入らないのか、それとも耳をふさぎたいのか。しかし、8月の自殺者数は東京都だけで210人で、前年同月より65人も増えているのだ。

「新型コロナで亡くなった人は1500人を超えたところですが、ほとんどが高齢者。特に虚弱高齢者はなんらかのイベントで亡くなる確率が高く、それが新型コロナなのかインフルエンザなのか、というだけの違いです。死亡の前倒しにすぎないなら、そこに至る人生を大事にするほうが重要でしょう。それよりは自殺者の増加にこそ関心を寄せるべきです」(同)

 自治体等による自粛要請は解除されても、新型コロナを実態以上に怖がる社会に自粛ムードが漂う以上は、死ぬ必要がなかった人たちの命は守れない。ほんとうに怖いものはなにか、そろそろ気づくべきである。

週刊新潮 2020年10月1日号掲載

特集「『コロナ』過剰対策で自殺者急増は女性!」より

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