コロナで自殺が増える理由 女性へのダメージが深刻で…

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 このごろやけに続かないか――と首をひねった向きも多かったのではないだろうか。9月27日、女優の竹内結子さん(享年40)が東京都内の自宅で、自ら命を絶っているのが見つかったが、9月20日にも俳優の藤木孝さん(同80)が都内の自宅で亡くなっているのが発見されたばかりだ。また、9月14日にも、女優の芦名星さん(同36)が自宅で首を吊った姿で発見されている。7月18日の三浦春馬さん(同30)以来、2カ月あまりのうちに4人もの俳優が自死を選んだことになる。

 東京都の小池百合子知事が初めて「いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない」と発言したのは、ちょうど半年前の3月23日だった。

 本誌(「週刊新潮」)はそのころから再三、人の動きを止めれば自殺者が増加する恐れがある、と書いてきた。失業率が上昇し、引きこもってうつになる人も増え、新型コロナウイルスに感染して亡くなる人の数を自殺者数が上回る、という皮肉な結果さえ招く、と警鐘を鳴らしてきた。

 杞憂となってほしかったが、残念ながら、自殺者数については、悪い予想が当たりつつある。厚生労働省と警察庁が集計した速報値によると、8月の自殺者数は1849人。前年同月にくらべ246人増えたのだ。ちなみに、8月に新型コロナに感染して亡くなった人は全国で273人。自ら命を絶った人はその7倍近く、さらには増加分だけで、いわゆるコロナ死の同数に迫る勢いなのである。

 死を招いた原因を、これだと言い切るのは難しいとはいえ、たとえば藤木孝さんはコロナ禍で仕事がなくなり、外出を控えて自宅にこもりがちだったそうで、遺書には「役者として続けていく自信がない」旨が書かれていたという。精神科医の和田秀樹氏によれば、

「外出自粛が藤木さんのような高齢者に与える影響は大きいです。65歳以上では、年齢が上がるほど自殺率が高まりますが、その理由は、加齢によって(脳内で働く神経伝達物質で「幸せホルモン」と呼ばれる)セロトニンの分泌量が減っていくからだと考えられています。外出自粛で日光を浴びない状況が続けば、セロトニンがさらに減るので、生物学的にみても危険な状態です。いまのような生活をさせればさせるほど、高齢者の自殺は増えるでしょう。高齢者の命を守るために自粛しているのに、逆効果になっていると思います」

 新型コロナ禍の影響なしとは到底言えまい。芦名さんと三浦さんの若い二人については、新型コロナとの関係は語られていないが、

「三浦春馬さんなどは報道で、やけ酒を飲んでいた感じを受けました。ショックなことがあった後、眠れなかったり、やけ酒を飲むようになったり、家にこもってウジウジし、人に相談しなかったりするなかで不安感が増強され、さらに飲酒でセロトニンが減少し2、3カ月のタイムラグをへてうつになります」

 人との接触を減らしていれば、うつにもなりやすいということだろう。

「酒飲みの人だと外出は自粛しても家で飲み、お酒の量が増えてしまう。すると、うつでなくてもアルコール依存症になり、自殺の危険性が増します。外出自粛を含め、メンタルヘルスを無視した対策がとられてきた悪影響が、本格的に出はじめています。真面目な人ほどコロナ禍が解決するまで外出しませんが、そういう完璧主義者や“かくあるべし”と考える人ほど、うつになりやすいのです」

 芸能人だから死が公表され、報じられたが、その陰で同様の悲劇が日々繰り広げられている、ということを忘れてはなるまい。

自殺者が8千人増える

 4人の芸能人は、経済的には追い詰められていた気配はないが、それでも命を絶った。経済苦を抱えた人にとっては、死はさらに近くなっているのではないか。経済の実態は、われわれが目にしている数字以上によくないようで、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が言う。

「今年4~6月期の実質GDPは、前期比年率マイナス28・1%でした。これは今期の落ち込みは前期、つまり1~3月期比マイナス7・9%で、それが1年続いたら年率でこれだけ落ちる、ということを示しています。しかし1~3月期に日本経済は、消費増税の影響ですでに悪くなっていた。消費増税の影響も含む実質GDPは前年比で見る必要があり、すると9・9%のマイナスです。統計開始以来、最悪の落ち込みで、新型コロナへの感染を防ぐために強制的に経済を止めた影響が、それだけ大きかったということです」

 それが失業者数に跳ね返るのは、周知の通りで、

「失業者はGDPの悪化に半年遅れて増える関係にあります。4~6月にGDPがこれだけ落ちた影響が失業者数に大きく反映するのは、10~12月期以降でしょう。昨年同期比で、失業者が100万人くらい増えてもおかしくありません」

 そして、やはり周知の事実であろうが、それは自殺者の増加に直結する。

「自殺率は失業率と密接な関係がある。仕事は生活の糧であり、社会との接点でもありますが、失業すると収入が途絶え、社会とのつながりも失われて孤立が深まる。先行きに絶望し、自ら命を絶つ人が出てきてしまうのです」

 と説明するのは、中部圏社会経済研究所の島澤諭研究部長である。

「リーマンショック時は失業率が5・1%程度にまで上がりました。今回は雇用調整助成金や無利子融資等が功を奏し、思いのほか倒産は増えていませんが、それでも現在2・9%の失業率は5%を超え、年間2万人前後で推移していた自殺者が、3万人程度にまで増えることが懸念されます。そうなれば、新型コロナ対策として経済活動を抑制した結果ですから、言葉は悪いですが、増えた自殺者は“政策によって殺された人”になると思います」

 加えて、メディアの影響も無視はできまい。国際政治学者の三浦瑠麗さんの話に耳を傾けたい。

「失業率が年内に4%にまで上昇する、というのが大方のエコノミストたちの予測値で、一つのメルクマール(指標)になると思います。ただ、経済への影響は政府の姿勢や人々の行動によっても変化します。直接的な休業要請による被害だけでなく、経済の“気”の部分が損なわれているのが大きいのです。ほとんどのエコノミストは緊急事態宣言発令当初、V字回復やU字回復を前提としていました。自粛した分の反動消費も起きると考えたのでしょう。でも現実には、感染自体は楽観シナリオで抑えられても消費は低迷し、経済は悲観シナリオに沿って進みそうだ、というのが私の感触です。自殺者数は失業率が1%ポイント上昇するごとに4千人増える、という相関があるので、8千人程度増える可能性がある。一番悲観的な予測では、年明けまでに失業率が6%に達するとされていて、そうなれば自殺者は1万6千人も増えてしまいます」

 ところが感染を怖がる人が多いわりに、命を左右する経済に無頓着な人が多いが、三浦さんいわく、

「自殺者数はすぐ目の前には示されないので、感染による死者にくらべて無視されやすい。しかも日本では、コロナが死因でない人も感染していればコロナによる死者数に算入され、水増しされています。さらに失業しない人のほうが多いため、自分も失業するかも、という恐怖感が足りず、共感されにくい。それでもいまのところ、社会全体にとっては経済のダメージによる死のほうが、明らかに深刻な問題です。そして、メディアが感染に対する恐怖を煽り続けるかぎり、冷え込んだ消費は戻らないし、そうした報道が止んでも、行われた恐怖キャンペーンは人々の頭に長く残ります」

 その間、ボーナスや給料が減っていけば、不況の連鎖になるほかあるまい。

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