菅首相で「拉致問題」「日朝交渉」はどうなる? 「進展する可能性あり」と言われる根拠
焦る韓国
重村教授は、菅首相が北朝鮮との距離を縮めることは、日韓関係の改善にもプラスとして働くと指摘する。
「徴用工の問題などで、日韓関係も膠着状態に陥っています。日本は『これからは独自に北朝鮮と交渉します』と行動すれば、韓国は相当に焦るはずです。今、南北の関係も非常に冷え切っているからです。日朝の外交協議が進展すれば、韓国は対日外交の政策を改めるかもしれません」
18年に南北首脳会談が3回開かれたが、この“謝礼”として、韓国は秘密資金を北朝鮮に支払うことで合意した可能性が高い。
ところがアメリカの監視により、資金を北に送れない状態が続いた。結局、約束が反故になった状態となり、北朝鮮が激怒しているのだ。
「菅首相が拉致問題の解決に意欲を見せたことも、韓国では高い関心を呼んでいます。日本が北朝鮮との関係を深め、アメリカを巻き込んで3カ国の枠組みを作る。つまり中国と韓国を外す形で核ミサイルや拉致の問題を話し合うというシナリオも、本気で検討すべきではないでしょうか」(同・重村教授)
最大の“敵”は自民党?
拉致問題について、日本は北朝鮮に対して、かなり“現実的”な条件を要求しているという。
「第1点は、今も生存している拉致被害者がいたら、1日も早く日本に帰国させろと求めています。そして2点目は、もし死亡している拉致被害者がいたならば、ご遺体などの物理的な証拠はなくとも、疑いようのない明確な事実を書面で提出すれば、日朝交渉を再開してもいいというメッセージを伝えています」(同・重村教授)
もちろん懸念材料もある。日朝協議の進展を阻む可能性があるのは、韓国でもなければアメリカでもなく、自民党だという。
「もし拉致問題を解決したり、日朝国交を正常化させたりしたならば、内閣支持率が上昇するのは間違いありません。しかし、北朝鮮との交渉は失敗のリスクを常に孕みます。例えば内閣支持率が急落するなどし、慌てて起死回生の策として北朝鮮との交渉に乗り出せば、必ず足元を見られてしまいます」(同)
北朝鮮と余裕を持って対峙するためには、菅首相の自民党における権力基盤がしっかりしており、内閣支持率も高い状態が望ましい。
「菅首相は無派閥で、忠誠を尽くす自民党議員はそれほど多くはありません。まだ総選挙も行われていないので、派閥の意向に耳を傾ける必要があります。拉致問題で菅首相がリーダーシップを発揮しようとしても、党内の重鎮から横槍を入れられる可能性があります。日朝交渉を前進させるためには、決して好ましい状態ではありません」(同)
ここで焦点になるのが、やはり選挙だ。衆議院議員の任期も迫る中、菅首相が総選挙で圧勝すれば、首相としての正当性が保証される。党内基盤も盤石なものになる。
菅首相のリーダーシップが思う存分発揮できる“余裕”が政権に生まれることが、北朝鮮との交渉が再開されるかどうかの最終的な鍵になるようだ。
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