「金」が史上空前のバブル 素人は投資すべき? 下落の危険性は?

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トランプもバイデンも

 前述した通り、すでに世の中には20万トン弱の金が出回っている。もちろん各国の中央銀行もしっかり貯め込んでおり、最も「金持ち」なのは米国のFRBで、およそ8千トン余り。日銀もまた、先進国では少ない方だが765トンを保有している。

「年間産出高の3300トンは、時価でいえばおよそ24兆円。日本政府が年間32兆円もの赤字国債を発行していることを考えれば、いかに市場規模が小さいかが分かります。金鉱山はますます深掘りが難しくなり、年間の産出量はこれ以上増えない。だから価値は高まる一方なのです」(前出・亀井氏)

 金の価格は通常、米ドル建てで表示される。先の池水氏が付言して、

「グラムではなく、トロイオンス(約31・1グラム)という貴金属の重量単位で表示され、ニューヨークやロンドンなど世界中の金市場で用いられています。日本国内の小売価格はもちろん円建てですが、ドル建て価格に当日のドル円の為替レートをかけ、トロイオンスからグラムへと換算して算出される。そこに手数料などを加えて、1グラムの小売価格が決まるのです」

 すなわち国内で目にする小売価格は、外国為替の影響を大きく受けることになり、円安は、金価格が上昇する要因となるわけだ。

 たとえば前出の「田中貴金属」では、店頭商品で5グラムから1キロまで9種類の金地金を取り扱っている。ただし、500グラム未満の売買では手数料(バーチャージ)がかかる。また売買には小売価格と買取価格の幅(スプレッド)があるので要注意。ちなみに、給与所得者など個人が金を売却して得た利益は「譲渡所得」として課税されるが、年間50万円までは特別控除(注・保有期間によって課税対象となる譲渡所得の算出方法は異なる)の対象である。

 実際に、空前の金ブームの只中にある田中貴金属に尋ねると、

「昨年の同時期と比べ、売り上げは約2倍に増えており、特に初めて購入する女性が増えました。ただ、従来は安値で買って高値で売るという傾向だったのが、昨年半ば以降は高い水準で売り買いとも半々、拮抗しています。最高値の更新以降も売却一辺倒ではなく、新規購入が衰えません。資産の一部を金で持つことに意義を見出された方が増えたのではないでしょうか」(貴金属リテール部の加藤英一郎部長)

 となれば、気になるのは果たして価格がどこまで上昇するのかである。池水氏は、

「FRBは8月27日、23年度まで金利を上げないといった趣旨の方針を示しました。ゼロ金利は数年続き、ドルなど通貨の価値は下がるでしょうから、金価格が上昇基調であるのは間違いない。現在1トロイオンス2千ドル前後ですが先々を見据え、すでに2500ドル、3千ドルなどという数字も飛び交っているところです」

 これが現実となれば、1グラムあたり1万円突破ということになるのだが、そこに下落の危険はありやなしや。経済アナリストの豊島逸夫氏は、こう指摘する。

「ウォール街では現在、11月の大統領選でもしトランプが再選されたら、リスク回避でさらに金へマネーが向かうと見られています。トランプは予測不能な人物で、不安定要素が多いことがその理由です。一方、民主党のバイデンも増税政策が問題視されています。法人税を21%から28%に上げると明言し、株式の売却益に39%課税すると主張している。このため株式市場急落の見方もあり、となればやはり金が買われる流れになります」

 いずれにせよ金価格は上がる展望だといい、その先には、

「現状の金価格の高騰は短期の投資資金、つまりはヘッジファンドによる資金流入が主導しています。彼らは今年前半から金を買い続けていますが、逃げ足も速い。大統領選という金融市場に影響を及ぼすイベントが通過することも重要で、ここで『材料出尽くし』感が広がる。それが終わったのちヘッジファンドは、年末の決算期を前に利益を確定するため、保有する金を売りに出るでしょう」(同)

 そうした“下押し圧力”が年末に強まり、いったんは小幅な下落を見るものの、

「FRBのゼロ金利政策でお墨付きを与えられたようなものですから、やはり来年以降、1トロイオンス3千ドルまで上昇してもおかしくありません」(同)

 そう見通すのだ。

有事でなく平時に

 が、一方で先の池水氏は、

「コロナウイルスという不安定要素に対し、画期的なワクチンが開発されたとしたら、金価格は下がることになるでしょう。先日、ロシアの研究機関がワクチンを開発し、ロシア政府が世界で初めてワクチンを承認したとのニュースが流れました。まだ完全に治験も終えていない眉唾の状況であるのに、それが報じられた時、1トロイオンス2075ドルくらいだったのが200ドルほど下落したのです。もし他の国できちんとしたワクチンが開発されたら、それ以上の幅で下落するのではないでしょうか」

 不安定要素で上下するなど、金相場は状況次第でかくも敏感に反応する。秋以降、ひたすら上がり続けるという保証はないわけだ。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏が言う。

「金は、現物には消費税が加算され、重量によっては手数料もかかります。1割以上のお金が余分に必要となり、売り買いが頻繁にはしづらい資産ですから、手を出すとすれば今後、2~3割の値上がりが見込めると判断できるかどうかがポイントでしょう。ただ、金相場を見極めるのは素人には容易くありません。大もとはドル建てで購入価額が決まりますから、為替相場も注視しなければなりません。しかも現在、金価格が上昇する円安の局面になる要素は見当たらない。短期的に儲けようとは考えず、現物を買うのであれば子や孫の代まで残すような長期資産として購入すべきでしょう」

 もとより現物ではない金の先物取引など“プロ”の領域。生兵法は大怪我のもとである。先の豊島氏も、こう説くのだ。

「『有事の金』とばかりに買い急ぎ、高値掴みをしてしまっては元も子もありません。有事の金とは本来、万一に備えて平時に金を買い進め、金融市場が混乱して保有する株が下落した際、金を売って利益を確保することを指すのです。ヘッジファンドなどのプロはすべてを見越して金を買い増している。素人が買い始めた時にはもう遅く、プロはすでに売り出して儲けを出しています。やはり、平時に買い進めるのが一番です」

 むしろ「平時の金」こそ極意だというのである。

週刊新潮 2020年9月24日号掲載

特集「史上空前のバブル! 『金』はどこまで値上がりする? 下落の危険性は!?」より

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