ワシントン・ポスト有名記者の最新「暴露本」から見える「トランプ」の本音

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金正恩が送った手紙は、BL(ボーイズラブ)顔負けの「ラブレター」のよう

 ウッドワードいわく、CIAは金正恩を「狡猾で悪賢いけど結局はバカ」と、分析している。

 一方のトランプは、金正恩は「狡猾で悪賢いが、かなり頭がいい。そしてタフだ」。

 さらに「私は奴のことは全て知っている。なんでも全て話してくれたからだ」とも。

 また金正恩とトランプはこれまで27回も手紙のやり取りをしており、その内容も本では明らかになっている。

 金正恩が送った手紙は、BL(ボーイズラブ)顔負けの「ラブレター」のようである。

 例えば2018年12月25日の手紙には、「世界中が見ている中で、あの美しく聖なる日で大統領閣下の温かい手を握った歴史的な瞬間を忘れられません」と書かれていた。

 また2019年6月10日には、「2人の深く特別な関係が、魔法のように朝米関係を進展させます……」と手紙に認めている。

 瀬戸際外交で強気な独裁者に見せている金正恩が、こうまでしてトランプの気を引こうとしていたことが暴露されている。

 北朝鮮国民には絶対に見せられない「恋文」だ。

 さらにはこんな意外な一面も描かれている。

 国務長官になったばかりのマイク・ポンペオ長官がCIA(米中央情報局)北朝鮮担当責任者と一緒に北朝鮮を訪れ、金正恩夫妻と同席したディナーでの出来事だ。

 席でタバコに火をつけた金正恩に、CIA責任者は親しみを込めて「タバコは体によくないですよ」と言った。

 独裁者への外国人からの無礼な言葉に、北朝鮮高官らは一瞬凍りついたという。だが金正恩の妻である李雪主が口を挟んだ。

「その通りだわ。私も主人にタバコの危険性は話しているのよ」。金正恩も妻には頭が上がらないということだろうか。

「安倍に聞いたんだ。安倍は友人だから。なぜわれわれが日本を…」

 また本では、北朝鮮以外でも中国に関する個所も興味深い。

 米中の貿易戦争について、トランプは「貿易で中国をかき乱してやろうとしているところだ。中国はマイナス成長になっただろ」と得意げに述べている。

 また中国は、トランプが再選すると見ていると、トランプ自ら語っている。

「中国政府は国内で最も優れた世論調査会社を雇って世論を調べ、トランプ圧勝と言う結果になったと聞いている」

 さらには、こんな話も。

 トランプは、プーチンが「中国は世界でもっとも手に負えない国だ」と語っていたとウッドワードに漏らしている。

 事実ならプーチンもいい迷惑だろう。

 ウッドワードはトランプの日本に対するコメントにも触れている。

 トランプが安倍晋三前首相に、駐留米軍の費用について問うたという。

「安倍に聞いたんだ。安倍は友人だから。なぜわれわれが日本を守っているのかと言った。日本は裕福な国だ。なぜわれわれが君らのことを守って、日本はコストの少ししか払わないんだ、と」

 安倍ほどトランプと仲良くない菅義偉首相は、トランプのこんな疑問にどう対処できるのだろうか。まったく未知数である。

 出版後、トランプはこのウッドワードの本について、「新しさのないつまらない本だ」とツイート。

 そしてこう付け加えている。

「『The Trump Century, How Our President Changed the Course of History Forever(トランプの世紀、私たちの大統領がどのように歴史を永遠に変えたのか)』という本が出る。素晴らしい著者の素晴らしい本。著者のルーを1位にしよう!」

 まだしばらく、出版業界の「トランプ・バブル」は続きそうだ。

山田敏弘(やまだ・としひろ)
国際ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィークなどを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のフルブライト研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。帰国後はフリーで国際情勢全般、サイバー安全保障、テロリズム、米政治・外交・カルチャーなどについて取材し、連載など多数。テレビやラジオでも解説を行っている。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文芸春秋)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)。近著に、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月26日掲載

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