5500万円で取引される番号も! 知られざる「電話番号」の世界
「あなたのビジネスが成功するかどうかは、電話番号で決まります」――もし突然こんなことを言われたら、多くの人が「そんなはずはないだろう」と反論するに違いない。
もちろんビジネスの成否が「電話番号だけ」で決まるはずもない。しかし「電話番号も」ビジネスを左右する一要素であると言われたら、どうだろうか。
実際、多くの企業が、希望する電話番号を手に入れるため、少なからぬコストをかけてきた。そのような需要を見込んで、電話番号の売買を手がける企業もある。
自他ともに認める「番号マニア」である佐藤健太郎さんの新刊『番号は謎』から、電話番号をめぐるエピソードを紹介しよう。
***
速報「娘はフェイク情報を信じて拒食症で死んだ」「同級生が違法薬物にハマり行方不明に」 豪「SNS禁止法」の深刻過ぎる背景
文明堂の戦略
昭和初期には、東京で電話の加入者は10万人を突破し、その数だけ配布された電話帳は、広告媒体として大きな力を持つようになった。1931(昭和6)年には、官製の電話帳が広告掲載を開始する。これに目をつけ、フルに活用したのがカステラの文明堂であった。
文明堂のCMといえば「天国と地獄」のメロディに乗せて人形が踊る、懐かしいテレビCMが有名だが、実はそのはるか前からアイディア商法の先駆者であった。実演販売や2割増量のおまけ商法に加え、皇室御用達となって高級ブランドのイメージ作りを行うなど、時代を先取りする戦略を次々打ち出した。そして彼らは広告の分野でも、斬新な手法を採用している。
文明堂は電話帳の裏表紙全面を買い取り、「カステラ一番、電話は二番」という有名なキャッチフレーズを大きく掲載したのだ。このフレーズは、当時大阪で繁盛していたすき焼き店の「肉は一番、電話は二番」という売り文句にヒントを得たものだという。広告料は3千円だったというから、今の価格に直せば約2千万円に相当する。各電話局の2番の番号の買い取り費用もかかったから、当時としては桁外れの投資額であったはずだ。
しかしその後の経過を見れば、文明堂の戦略は大成功であったといえよう。番号というものが創り出す莫大な価値に誰よりも先に気づいたという意味で、彼らはまさに先駆者であった。現在では文明堂はいくつかの会社に分かれているが、多くの社で電話番号下4桁を「0002」あるいは「2222」とし、伝統を守っている。
5500万円で取引される番号とは?
その後も、商品との語呂合わせなど覚えやすい電話番号を取得し、ビジネスの成功に結びつけた例は数知れない。各店舗の電話番号下4桁を0101に統一した丸井グループ、8並びの電話番号を採用したダック引越センター、「よい風呂」に引っ掛けて4126番を採用したハトヤホテルなどが代表的な例だ。これらの電話番号を使っていなければ、今の彼らの隆盛はおそらくなかっただろうから、時に番号というものは企業や人間の行く末さえ変えてしまうのだ。
近年では、携帯電話が番号を記憶してくれるし、電話番号を直接必要としない各種SNSも普及しているから、良番の価値は低落気味だ。それでもゾロ目番号や連番などの覚えやすい番号は、数百万円以上の価格で取引されることも多い。携帯電話の090-1234-5678番は、なんと5500万円で取引されるという。単なる数字の並びに、家1軒分もの価値が生じるというのも不思議なことではある。良番には、理屈を超えて人を引きつける魔力があるのだろう。