「菅総理」が総裁選で見せた「石破潰し」 総理就任に向けた“殲滅作戦”とは

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にじみ出る「叩き上げ」の自負

 16日、新内閣の顔ぶれが発表されたが、そこには総裁選を戦った石破茂元幹事長の姿はなかった。菅義偉(よしひで)新総理(71)が総裁レースで見せた「石破潰し」の作戦とは。

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「私は秋田の農家の長男として生まれました。地縁も血縁もない政治の世界に飛び込んで、まさにゼロからのスタートでした」

 にじみ出る「叩き上げ」の自負。

「その私が、歴史と伝統のある自由民主党の総裁に就任することができました」

 9月14日午後3時46分、彼は394人の国会議員を前に、高らかにそう謳(うた)いあげた。

〈選ばれて在ることの恍惚と不安とふたつわれにあり〉

 ヴェルレーヌのこの美しき詩句は、「選良」としての高揚感と、それとは裏腹の責任の重さを見事に言い表している。

 第26代自民党総裁にして、第99代内閣総理大臣、菅義偉。彼もまた、今まさに恍惚と不安の渦中にあるに違いない。

 菅氏377票、岸田氏89票、石破氏68票。

 総裁選を圧倒的な数で制した菅氏が、「選ばれし者」として日本の舵取りを担うことになった。

見えない政治の「軸」

 それにしても、つくづく日本人は不思議である。安倍晋三前総理の辞任表明後の世論調査では、ポスト安倍の最有力候補は石破茂元幹事長だった。しかし、派閥の談合で菅氏が優勢だと報道された途端に、世論調査でも菅氏がポスト安倍筆頭に躍り出たのだ。

 仮に世間が永田町の論理に「迎合」したのだとすると、菅氏が支持された理由は「勝ちそうだから」ということになる。「菅氏が総裁選に勝利できたのは勝ちそうだったから」という、何ともトートロジー的な現象が起きたのだ。それは裏を返せば、菅氏の政策や政治スタンスが支持されたわけではないことを意味する。

 確かに安倍前総理にとっての憲法改正、あるいは拉致問題のように、「菅氏といえば」という政治理念を思い浮かべることは難しい。

 インバウンド?

 菅氏がインバウンド増に血道を上げていることは知られているが、観光業がGDPに占める割合はたかだか0・5%。まさかこれが「令和日本の立国の道」と言うつもりではあるまい。

 携帯料金の値下げ?

 これも一国の総理の看板政策であろうはずはなく、もし本当にそうなのだとしたら、菅氏は今からでも携帯電話会社の社長を目指すべきであろう。

 それら以外の菅氏の政策は見えづらく、すなわち彼の「国家観」が伝わってこない。そのせいか、10日のテレビ東京の番組では消費税増税に言及し、慌てて翌日に「今後10年は考えていない」と火消し。

「何の根回しもなくいきなり消費税増税に言及し、2010年の参院選で惨敗した民主党政権の菅直人総理(当時)を髣髴(ほうふつ)せる“失言”でした。『菅(すが)の菅(かん)化』と揶揄する声も出ていましたね」(官邸関係者)

 自身の政治観の「軸」がないからふらつくのか、最高権力者の座が目前に迫って浮ついていたのか。まさか総理になること自体が目標だった、などということはないと思いたいが……。

殲滅作戦

「『手堅さ』が売りの菅さんですが、総裁レースの過程では珍しく調子づいた様子が見られました」

 と、大手メディアの官邸担当記者は振り返る。ポスト安倍候補の筆頭に躍り出たことについて番記者に訊(き)かれた菅氏が、思わず「当然だろ」と豪語したことは「週刊新潮」9月17日号で報じたが、

「他にも総裁選の最中に、『総理になっても朝の散歩は続けたい』『しばらくは赤坂宿舎に住むだろう』『菅内閣(の命名)は“働く内閣”』……などと口にしていました。慎重な菅さんにしては、『総理になる前提』での話をするので少し引っ掛かりました」(同)

 菅氏はひと足早く「選ばれし者の恍惚」に浸っていたのかもしれない。

 一方、彼は「不安」を取り除くことも忘れず、

「弁が立つ石破さんとのディベートの機会を避けたがっていて、実際、石破さん、岸田さんと共演することになっていた6日のNHK『日曜討論』を、台風10号対策を理由にドタキャンしました。NHKのスタッフは怒っていましたね」(同)

 また絶対的に有利な情勢でありながら、敵の「殲滅(せんめつ)」を指示してもいた。

「総裁選の党員票は各都道府県連に3票ずつ割り振られ、総取り方式ではなく票を配分するドント方式を採用した県連もありました。すると菅さんは、『ドント方式のところで、1票(菅氏)対1票(石破氏)対1票(岸田氏)はダメだ。必ず2票対1票にしろ』と指示を飛ばしていました。圧倒的な得票で少しでも総裁選後の人事の主導権を握りたいという思いと同時に、地方で人気のある石破潰しの狙いが透けて見えましたね」(菅選対関係者)

週刊新潮 2020年9月24日号掲載

特集「『菅総理』の裏街道」より

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