3万人から2000億円 「豊田商事」になぜ多くの人が騙されてしまったのか?

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「この部屋に豊田商事の会長が住んでいたことはもちろん知っているし」

ところで、永野刺殺事件の実行犯はどうしているのか。

 主犯として懲役10年の判決を受けた鉄工所元経営者は、近畿地方のある都市で、3DK約7万円のアパートに暮らす。

「70代の奥さんと一緒です。入院していたこともありますが、今は元気ですよ」(近隣住民)

 その一方で、共犯として懲役8年の判決が下った元従業員。服役中に同房だった男の証言によると、

「毎月、母親が1万円ほど送ってきてた。“俺は刺してへん”が口癖やったな」

 出所後は大阪市内で生活していたが、10年ほど前に中国地方へ引っ越したという。

「事件を起こしたのは皆知ってました。20ほど年の離れたえらい別嬪さんと結婚して子供が5人おったわ。ここでは麻雀店を切り盛りしとった」(大阪時代の知人)

 ちなみに、当時、永野会長が住んでいたマンションの一室は何度も転売されている。そこに住むオーナーに話を聞いた。

「この部屋に豊田商事の会長が住んでいたことはもちろん知っているし、襲われたことも知っていますよ。でも、そんなの全く気にしてませんよ」

「今の時代、老人の孤独死だったり、子供が虐待死だったり、どこにでもあるでしょう? 少し前には親子で餓死した事件もあったし。だから、ある意味、人が死ぬのって日常的なことだと思うんです」

「そして、事件なんて日本中どこに住んでいてもある。さらに言えば、大阪は『夏の陣』だってあったわけでしょ? 考え方によっては、何百、何千の人が死んだ場所にウワモノを建てているわけですから、どこに住んだって同じですよ」

「だから、この部屋で豊田商事の会長が死んでいても関係ないんですよ。それに、厳密に言えばこの部屋で死んだわけではなく、救急車で搬送された後、病院で息を引き取ったわけでしょう? だから何とも思いませんね。ま、幼い子供が亡くなっていたら、ちょっと嫌だなって気はしますけどね」

「永野のデスクの抽斗(ひきだし)には、『銀河鉄道999』の漫画が…」

「この部屋は、僕がオーナーになって8~9人目くらいなんじゃないかな。前のオーナーが部屋をリノベーションしてくれて、床もフローリングでピカピカだし、壁も綺麗で3LDK。トイレもウォシュレットがついているし、風呂も自動です」

「なおかつ食洗機まであるから、すごく快適です。この部屋を選んだ理由は、単純に快適で便利だから。商店街も近いし、駅からも近い。いい物件だと思ってますよ」

「当初、この部屋は2200万円で売りに出されていたんですが、リーマンショックが起きて売れなくて、1800万円まで下がりました。で、このとき僕が買うことになったんですが、交渉して1600万後半くらいで買いました」

「もちろん、不動産屋さんからこの部屋で事件が起きたことは聞かされましたよ。でも、“別にいっか”と思って。今日、事故物件なんて山ほどあるわけだし、たまたまこの部屋は事件が事件だっただけに有名になっただけでしょ」

「“お前、よくそんな物件買ったな”って言ってくる友達もいましたが、僕は気にしてません。幽霊なんて勿論出ませんよ(笑)」

「ただ、一度だけどこかのウェブサイトの人がいきなり来て、“ホラー特集をやりたいので、部屋の中に定点カメラを置かせてくれ”って言ってきたんです」

「断ろうかなーとも思ったんですが、面白そうだし、むしろ幽霊がいるなら見てみたいと思って、“いいですよ”と(笑)。でも、結局何も映りませんでした。むしろ、永野一男の霊がいるなら出てきてほしいですけどね」

「今後売る可能性? うーん、僕が買った値段より高く売れるのであれば、考えないでもないですね」

最後に、先の児玉弁護士がこんなことを打ち明ける。

「永野のデスクの抽斗(ひきだし)には、『銀河鉄道999』の漫画が、20冊ほどズラッと並んでいました」

 アニメ版『999』の主題歌の一節にはこうある。

 ひとは誰でもしあわせ探す旅人のようなもの――。醜い策謀を弄したばかりに、不幸まで背負いこんだ永野の人生を知る者として、これほど皮肉な“遺品”もあるまい。

週刊新潮WEB取材班

2020年9月21日掲載

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