尖閣「中国漁船衝突」から10年 映像を投稿した元海保「一色正春氏」に訊く
日本は対処療法
海保は抽象的な任務規定の解釈で運用しているのが実態で、基本は国際法が根拠だ。
「防衛出動も様々な制約があります。そもそも、わが国は他国が侵略してくることを想定していません。最高法規である日本国憲法前文には『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』と謳われており、自分の国は自分で守るという、ごく当たり前のことが否定されているのです」(同)
ならば、この10年間、日本政府は無為無策だったのかと言えば、そんなことはないという。
「石垣や宮古の巡視船艇の数を増やしたり、沖縄県警に国境離島警備隊を発足させたり、南西諸島の自衛隊を強化したり、と様々な対応策を講じています。とはいえ、これらは付け焼き刃的というか、対処療法でしかないのも事実です」(同)
「中共が強硬手段を講じたらどうするのか、軍拡を続ける中共の海軍力にどう対峙するのか、最終的にこの問題をどう解決するのか、といったグランドデザインが描けているのか疑問です」(同)
中国共産党が何十年もかけ、じわじわと“尖閣諸島の実効支配”を目指しているのと比較すれば、日本の対応は「お粗末としか言いようがない」と一色氏は指摘する。
日本人の覚悟
日本人にとって重要なのは、第二次世界大戦の“戦訓”だという。
「なぜ日本は第二次世界大戦に敗れたのでしょうか。例えば大陸の戦線は終戦時まで、決して劣勢に立たされませんでした。一方、太平洋ではサイパン、硫黄島、沖縄といった要衝が次々に奪われました。つまり日本はシーレーンを壊滅的に破壊されたことで、原油や鉱物といった戦略物資の輸送が不可能となり、ポツダム宣言を受諾したのです」
一色氏によると、現在の日本海運の担い手は外国人船員が大半を占める。有事の際、外国人船員が日本のため、命をかけて物資を運んでくれるのか、真剣に考えなければいけない問題だという。だが、多くの日本人は問題自体の存在を知らない。
その一方で、中国共産党は着々と法整備を進め、海軍力を増強し、外洋の膨張主義を公言してはばからない。端的に言えば、中共は台湾と沖縄を常に軍事的な視線で見つめている。
「日本人に必要なのは覚悟です。他国の侵略を跳ね返すためには、自らが血を流してでも他国に屈しないという覚悟です。そのためには憲法9条の改正や核武装という十数年前には議論することすらはばかられていた問題に対し、逃げずに立ち向かわなければなりません」
イージスアショア
日本に隣接する核保有国はアメリカ、ロシア、そして中国と北朝鮮だ。そのうち、アメリカを除く3か国との外交関係は決して安定していない。
「原水爆の禁止が崇高な理念であることは否定しませんが、何よりも大事なことは、日本国内で核兵器が二度と使用されないことです。そのためには核保有も含めて国民の広範な議論が必要なのですが、肝心の政治家がこの問題から逃げていることが残念でなりません」(同)
一色氏は、そもそも“核の傘”や“国際世論”という言葉に疑問を持つと言う。
「北朝鮮や中共が日本に核ミサイルを発射したとします。自国に甚大な被害が生じるとしても、アメリカは果たして日本のために核ミサイルで報復してくれるのでしょうか。普通に考えれば、他国のために自国を危機にさらす国などありません」
日米安保に依然として信頼を置く有権者を、一色氏は「ナイーブ」と指摘する。
「ウイグルやチベット、南モンゴルや香港で中国共産党は凄まじい人権侵害を行っていますが、被害者を救うためにアメリカが中共と戦争を始めるとは思えません」
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