「菅総理」誕生の背景に2人のドン 「東京五輪」買収資金5億円を用意した人物とは

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「横浜のドン」

 16日に首相に指名された菅義偉氏。裸一貫から首相にまで上り詰めた背景には二人の「ドン」の存在があったという――。

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 1人目は、横浜にある港湾荷役業「藤木企業」会長の藤木幸夫氏(90)。言わずと知れた「横浜のドン」だ。菅氏とは長らく親密な関係を保ってきたが、横浜市が誘致を目指すカジノに藤木氏が猛反対したことをきっかけに、3年ほど前からすきま風が吹くように。ところが安倍総理が退陣を表明する4日前、急遽、両者が「手打ち」を果たしていたことは、本誌(「週刊新潮」)9月10日号でお伝えした通りである。本誌の取材に応じた藤木氏は、菅総理誕生となれば、「ひとつの革命じゃないですか」、と目を細めて語ったのだった。

「菅さんが秘書をしていた小此木彦三郎さんと藤木さんは義兄弟のような関係。ですので、小此木さんの秘書になれば必ず藤木さんのところには通います」

 と、元横浜市議。

「確か、最初の頃は小此木さんが菅さんを連れて藤木企業に行っていましたが、そのうち菅さん一人で行くようになった。通常、藤木企業の中に入るには、1階の受付で用件を伝え、そこから秘書室に連絡が行き、中に入れるかどうかを秘書が判断する。ただ、いつ頃からか菅さんは別格扱いされており、玄関の守衛さんにぱっと手を上げれば中に入れて、そのまま秘書室で雑談していました」

 藤木氏に相当気に入られたようで、氏が主宰する「ともだち会」にも早々に入会を許されたという。

「この会は主に藤木企業に出入りする業者の社長さんたちが入っている会。月に1回、藤木企業の大会議室で藤木さんの話を聞き、その後、宴会をするのです。会には藤木さんや秘書に気に入られないと入れない。菅さんは他のメンバーと比べて格段に若かったですね」

 藤木企業関係者はそう振り返る。

「この会は実は、藤木さんが政治家の資金パーティーの際に人を動員するための装置でもあります。人数を集める際、このともだち会のメンバーにまず声をかけ、それぞれが会社の代表だからみんな自分の会社に持ち帰り、従業員にパーティー券を売って人を動員するのです。藤木さんは金は出さないけど、金を集める仕組みを持っているのです」

 実際、菅氏が市議選に出馬した際も、藤木氏は金ではなく人を出した。

「選挙の3カ月くらい前に、藤木企業の幹部で選挙参謀を務める人が、本当の選挙事務所とは別に事務所を立ち上げます。そこに、普段は港で荷役をやっている人を中心に80人から100人くらいが集まってきて、選挙参謀の指示の下、選挙運動を行うのです」

 と、先の元横浜市議。

「港湾労働者は、船が天候不順などで予定日に到着出来ない日はヒマです。しかし月給制だとそれでも賃金は発生するので、そういう人たちを使うわけです。選挙期間に入るまでのほぼ毎日、戸別訪問や電話をやらせます。彼らは独自に動いてくれ、当然、無償。最初の市議選で菅さんが当選した時、藤木さんは相当喜んでいましたよ」

 その後、国政に転じ、第2次安倍政権の要である官房長官を長らく務め、ついに総理の椅子に座った菅氏。今回の総裁選の選対本部長を小此木彦三郎氏の息子である小此木八郎代議士(55)に任せたのは、

「『自分は昔の恩義を忘れません』というアピールなのでしょう。しかしこれまで菅さんは八郎さんをバックアップするどころか、ほっぽり出してきた。その証拠に、2017年に国家公安委員長になるまで大臣すらやらせてもらえなかった」(神奈川県政関係者)

 また、去る8月31日に本誌の取材に応じた藤木氏もこう語っていた。

「菅くんの口からね、お世話になった代議士でね、小此木の名前は聞いたことないよ。梶山静六とか古賀誠とかね。彼が心酔していたのは、そのへんなんだよ」

「見えざる金脈」

 この藤木氏以外に、菅氏を支える「ドン」がもう1人いる。それは、パチンコ・パチスロ界のドンで、政界のタニマチとしても知られる「セガサミーホールディングス」の里見治(はじめ)会長(78)である。

 本誌は今年2月に掲載した〈「森喜朗」新財団が呑み込む「嘉納治五郎財団」の五輪買収「5億円」疑惑〉という特集記事で、菅氏と里見会長の「意外な繋がり」を明らかにしている。

 次期五輪の開催地が東京に決定した13年秋頃、里見会長は新橋の料亭で、

「東京オリンピックは俺のおかげで獲れた」

 と自慢した上で、次のような裏話を披瀝した。

 菅氏から「(五輪を東京にもってくるために)アフリカ人を買収しなくてはいけない。4億~5億円の工作資金が必要」と頼まれ、里見氏自身が3億~4億円、知人の社長が1億円用意して、中身がブラックボックスになっている「嘉納治五郎財団」に振り込んだ――。

 本誌の取材に対し、セガサミー広報部は、セガサミー社から「嘉納財団」への寄付実績があることを認めた。さらに、財団の内部資料を入手したところ、12年から13年にかけて、里見会長からと思しき2億円の寄付金収入が計上されていることが判明したのだ。

 菅氏から依頼され、ポンと大金を出す里見会長。この記事により、菅氏の「見えざる金脈」の一端が明らかになったわけだが、里見会長の側もしっかり「実」を取っている。

「里見さんの娘さんは13年に経産省の官僚だった鈴木隼人氏と結婚しています。その鈴木氏は14年の衆院選出馬の際、自民党の比例東京ブロックの単独1位という破格の待遇を受け、何の苦労もなく当選した」

 と、永田町関係者。

「また、カジノ誘致に積極的だった里見さんの思いに応えるかのように、安倍政権は16年に『カジノ推進法』を成立させた。今年1月には、セガサミー社長である里見さんの息子が、“横浜カジノ”への参入を目指す方針を明らかにしています」

「横浜進出」は、里見会長が2000年代初め頃から抱いていた「悲願」で、その時期、人を介して藤木氏とも会っている。

 安倍総理の退陣表明の直前、菅氏が藤木氏と手打ちしていたことは先に触れた通り。しかし、藤木氏の立場は「カジノ反対」のままだ。いかにして二人のドンを納得させるのか。「菅総理」が直面する最初の難問になりそうである。

週刊新潮 2020年9月17日号掲載

特集「『菅総理』その金脈と人脈」より

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