芦名星さんを偲ぶ 映画「七瀬ふたたび」で主演、多岐川裕美との新旧ヒロイン対談
恥ずかしくて、昔の映像は見返せない(芦名)
――新旧の七瀬を演じた多岐川さんと芦名さんですが、お二人とももともと女優志望だったのではなく、たまたま街でスカウトされたのだとか。
多岐川 ええ、私もさっき芦名さんのプロフィールを拝見していて、「おお、二人ともスカウトだ」と思ったんですけど、今はスカウトされた女優さんも多いですよね。
芦名 少なくはないですね。
――スカウトされて女優を始めるというのは、演技の勉強などが大変だったんじゃないですか。
多岐川 今の方はみんな演技が上手でしょう。なぜですか。私たちの時代は、養成所とか劇団に入ってない人は、とてつもなく下手というか……(笑)。今の人は、テレビドラマとか見て育っているから、演技が上手いのかしら。私の場合は、7つぐらいでようやく家庭にテレビが入ってきた。ドラマもそんなに放送していなかったですから。芦名さんは、初めて演技をするときどうでした?
芦名 初めてのときは、とある映画で、エキストラさんみたいに、「えっ」と言って通り過ぎていくとか、そんな役だったんです。そういうことから始めたんですけど……。
多岐川 じゃあ、ちょっとセリフが長くなってきたときはどうでしたか。
芦名 そのときは、何が難しいのかすら分からない感じでやっていましたから。セリフを覚えていって、とりあえずそう言ってみるけど、監督に「もっと感情がこうで、こうなるから、こういう演技で」と言われると、「ああ、そうか」と思うんですけど……。
多岐川 でも、言われるとすぐに演技ができちゃったりしたんじゃありませんか?
芦名 いえ。恥ずかしくて、昔の映像は見返せないですよ。最初はすごく難しいというか、どう演じたらいいか分からない状態でした。きちんと台本を読んで、感情の流れを考えてとか、そういうふうになれたのは、ある程度時間が経ってからです。
多岐川 そうですよね。最初はそんな余裕はないというか、演技をどういうふうに作っていくかなんて、ノウハウも分からなかったりしますよね。
――現場の雰囲気も今と昔では違うのでしょうか。
多岐川 昔は撮影にしてもゆっくり時間をかけてくださって、テストもいっぱいしてくださった。だから、いざ本番になって、OKがなかなか出ないと落ち込みましたね。今みたいに、何時間内で撮らないといけないという感じではなかった。でも、若い人たちは、ドラマが初めての人でもさらりと演技されるから、すごいと思っちゃう。
――芦名さんは先輩の女優さんとお話しされたり、お芝居のヒントを伺ったりすることも多いんですか。
芦名 お芝居する上で、何か一つ悩んでしまうと、私はそれが表に出てしまうんです。それは指摘されるときもありますし、自分で気がつくときもあるんですが、ずっとお芝居をされている方はそういうことがないものだと思っていました。でも、ご一緒させていただいた方にお話を聞くと、皆さん同じように悩んでいらっしゃる。「今の演技、正直なところ役が全然分からなかった」なんておっしゃるんですよ。でも、私が見ると、そういうふうには見えない。完璧に演じていらっしゃって、「何でそういうふうに自分の中で整理がつけられるんだろう」って、すごいなと感じるんですね。なので、何か分からないことを直接先輩にお聞きするというよりは、一緒に過ごしている時間で学ばせていただくことがすごく多くて。
多岐川 私もそうでした。大先輩方と一緒にお芝居をさせていただいてきたわけですが、先輩方の演技は全て私の引き出しの中に入っていて、そのときは分からないのだけど、後になって「あのときはこうだった、ああだった」というのが、役を演じていて壁にぶつかったときにすごく参考になることがありますね。みんなそうだと思うんですけど。その役を把握できなくてすごく悩んで、自分が嫌になったりもする。でも、それは自分でしか乗り越えられないから、自分で克服してやるわけですね。そういう役ばかりでもなくて、最初から役に入れちゃって、楽しく終わっちゃうこともあるかもしれないですけど、克服しなきゃいけないというのは、すごく辛いですよね。
芦名 ええ、辛いんですね。
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