芦名星さんを偲ぶ 映画「七瀬ふたたび」で主演、多岐川裕美との新旧ヒロイン対談
9月14日、都内の自宅マンションで亡くなっているところが発見された女優・芦名星さん(享年36)。自殺を図ったとみられるが、遺書も見つかっておらず、原因は不明だ。「新潮45」(2010年11月号)では、26歳の彼女が「なぜ生きるのか」、「恋愛観」、「新しい経験」について、多岐川裕美さんと語り合っていた――。(以下は「新潮45」2010年11月号掲載時の内容です)
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七瀬シリーズは累計430万部
――人の心が読める超能力者の女性を主人公にした、筒井康隆氏原作の七瀬シリーズ(『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』いずれも新潮文庫)は累計430万部のベストセラーです。筒井作品の中でも『七瀬ふたたび』は『時をかける少女』に次いで多くテレビで映像化されました。『七瀬ふたたび』は、超能力者の七瀬が、さまざまな能力を持つ仲間たちと協力して巨大な敵に立ち向かうストーリーで、初めて映像化されたのは1979年にNHKの少年ドラマシリーズにおいてです。その時、主人公の火田七瀬を演じたのが多岐川裕美さんですが、それが今回初めて映画化され、芦名星さんが七瀬を演じて大きな話題を呼んでいます。多岐川さんもご覧になられたそうですが、感想はいかがでしたか。
多岐川 すごく面白かったです。登場人物は、私のときと一緒ですが、同じものを見ているという感覚はなかったです。『七瀬ふたたび』という内容は同じだけど、印象は違いますね。CGがふんだんに使われていたりして、現代的というよりも、超未来版という感じでした。
――芦名さんも多岐川さん主演の「七瀬」はご覧になっていますか。
芦名 はい、拝見させていただきました。今回の映画よりも、すごく細かく、原作により近い部分で描かれているので、人間関係が分かりやすかったですね。あと、私が演じた七瀬と多岐川さんが演じられた七瀬というのは、印象がやっぱり違うなという感じはありました。最初に多岐川さんの演じられている七瀬を見たときに、すごく美しいなと思ったんです。原作には、「みんなの目を引いてしまうぐらい美しい」と書いてあったけど、こういうことなんだと。表情やしゃべり方は柔らかいのですが、凜とした強いものを感じられて、「わあ、すごいな」と思いながら、結構楽しく拝見させていただきました。
――七瀬が初めて映像で登場するのが、1979年にTBSで『家族八景』がドラマ化されたときです。そのとき、七瀬を演じたのがやはり多岐川さんで、その後、NHKでも演じることになった。当時の視聴者にとっては、多岐川さん=七瀬というイメージが強いと思うのですが。
多岐川 私の七瀬ファンというのは、あまり聞いたことがなくて ……。むしろ同じ頃放映されていた「俺たちは天使だ!」のファンのほうが多いんです。でも、私の七瀬が好きだと言われるとすごく嬉しいんです。というのは、こういう不思議な人が好きなので。今は全然そういう雰囲気はないですけど、昔は、「宇宙人みたい」とよく言われたんです。何を考えているかわからないみたいな子だったらしくて、その辺の性格的なものや雰囲気も、キャスティングされるときに何か影響したんでしょうね(笑)。
――七瀬という女性を演じられていて、多くのファンを持つ七瀬の魅力については、どう思われていますか。
多岐川 七瀬の魅力って特に今までは考えたことがなかったですけど。自分が役を演じていると、その魅力ってあんまり考えないですね。どんな心でいるのか、その気持ちがどういうふうに変わっていくかとか、まずそちらを考えてしまうので、客観的になれない。人が演じているのを見ると、その役の魅力については考えられるんですけど。
――七瀬という女性に共感する部分などは。
多岐川 愛の深さというか、やっぱり温かさでしょうか。
――芦名さんはいかがですか。
芦名 超能力者の世界というのは、自分で経験できることではないので、原作の『家族八景』や『七瀬ふたたび』を読んで、理解を深められた部分がありました。人の心を読めるというのは、他人の見たくない部分まで見てしまう。だから、すごく精神的な負担が多いのだろうなと。それがゆえに、彼女は「自分は何で生まれてきたのだろう」とよく言うのですが、そういう気持ちと、それでもやっぱり生きたいという気持ちがある。その葛藤の一方で守りたい人たちがいるから、その人たちのために戦うという意識もあって、生きる姿勢にすごく強いものを感じるんですね。でも、誰かに自分の弱さを受け入れてほしいとも思っている。もともと人間味のある女性で、ちょっと余分な能力が付いてしまっただけ。そこのところが私たちと違うだけなので、七瀬が感じていることとか、思っていることはよく理解できました。演じていてもすごく楽しかったですね。
――「何で生きるのか」など、作品の中に普遍的なテーマがあるのも、ロングセラーの一因でしょうね。
芦名 そうですね。それに、人間誰しも何か超能力があったらいいなとか思うじゃないですか。何度も映像化されているのは、そういう人が憧れる能力を持っている女性が主人公のドラマということもあるでしょうし、テーマになっていることが、どうして生きるのか、なぜ死ぬのか、それに人を守ることの意味とか、時代が変わっても誰もが興味を持つ部分が含まれているからだと思うんですね。
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