「周防正行」監督が語る「いい役者」の条件 本木雅弘がハプニングで取った行動とは…
過去の自分にもう一度会いに行く
周防 ところで、この本(『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』)は構成も面白いですね。二宮青年が学生競技ダンスに身も心も捧げ尽くした大学時代(過去パート)と、その10年後(現在パート)が短い間隔で交互に描かれるという。この一冊で入部から卒部までの4年間を、しかも個性的な人物を躍動させながら描き切った。
二宮 最初は過去パートだけでいこうと思って書いていたんです。でも、書くにあたってかつての仲間と会っていくと、「そんなこと考えてたの?」「今はそう思ってるんだ!」という驚きがたくさんあり、どうしてもそれを書いておきたくなったんです。でも、過去と現在をバラバラに書いたら作品にはならない。だから、過去パートが入部からの時系列で進み、それと呼応するように現在パートを配置しました。で、最後に過去と現在がつながる。何回も何回も原稿を書き直すうちにたどり着いた構成です。
周防 大学生の二宮青年は上達の階段を昇り、作家になった二宮さんは社会人になった仲間たちとの再会を重ねる中で気づきの階段を昇っていく。
二宮 連絡のつく人には全員会って、サシで毎回3時間くらい話してましたね。最初は僕から質問するんですけど、途中から相手がばーって話し始めて、最後はなぜか「話せてよかった、ありがとう」と感謝される。
周防 過去の自分にもう一度会えたからでしょうね。やっぱり人間にはそういう機会が必要なのかな。
二宮 誰かと話すことで自分ひとりではわからないことがわかるんですよね。記憶が嘘をついていたり、同じ瞬間なのに別のものを見ていたことがわかって、改めて体験の価値に気づかされたり。
周防 読んでいたら、自分の青春時代を思い返しましたよ。助監督時代に一緒にいた仲間たちに、自分はどんなふうに見えていたんだろうとか。
二宮 ぜひ次回はそのような映画を。
周防 ははは。えらい宿題をもらっちゃったな。
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