「京都駅はじつは東京駅よりも大きい?」――鉄道ファンも驚くミステリー
日本で一番大きい駅はどこか、皆さんはご存じだろうか?
乗降者数が一番多いのは東京の新宿駅で、1日平均約353万人。これは世界一の乗降人員でもある。一方、ホームの数が一番多いのは東京駅で、28本ものホームがある。
しかし、ここで不思議に思う京都人も多いだろう。なぜなら、京都駅は34番線まであるからだ。
「もしかして、京都駅の方が東京駅よりも大きいの?」――この疑問に対する答えは、自他ともに認める「番号マニア」佐藤健太郎さんの新刊『番号は謎』に書かれている。同書から再構成してお伝えしよう。
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東京の駅は「魔境」
田舎で育った人間が都会に出てきてまず肝を潰すのは、複雑極まりない駅の構造だろう。JRと私鉄が1本ずつしかない田舎町から、18歳で東京に出てきた筆者も、まさにその洗礼を受けた。
人でごった返す駅に、次々とやってくる色とりどりの列車たち。上り下りだけを意識していればよい田舎とは異なり、路線図はスパゲッティのように絡み合って行き先の把握を阻む。相互乗り入れなる不可解なシステムにより、JRに乗っていたはずがいつの間にか地下鉄に引きずり込まれていたことも一度や二度ではない。
しかも東京人たちは、その魔境を何ら迷うことなく、スタスタと目的のホームへ一直線に歩み去ってゆく。彼我の圧倒的な力量差に、定期券を握り締めながら打ち震えたあの日々──生まれついての都会人には決してわかるまいが、これは全く大げさではないのである。
都会の駅で路頭に迷うのは、何も田舎者の青年ばかりではない。近頃激増する訪日者にとっても、日本の駅の複雑さは大きな悩みの種だ。駅名も路線名も読めない外国人も、無事目的地にたどり着けるようにするには、万国共通の数字を用いるのが一番である。というわけで駅のホームの番号(番線)は昔から広く活用されてきたし、最近では駅自体にも番号が振られるようになった。
横浜駅は「日本のサグラダファミリア」?
さて、駅のホーム番号のつけ方には、特に法的な取り決めなどはない。ただし国鉄時代には駅長室に近い側を1番線とするという慣習があり、JRになってもこれを踏襲している。私鉄の場合には、JR同様に駅長室側から付番しているケースもあれば、下り線から順に番号をつけている東急電鉄のような場合もあり、会社によって方式はバラバラのようだ。阪急電鉄は「X番線」ではなく「X号線」という呼び方を採用しており、このへんにも個性が表れている。
ひとつの駅に複数の鉄道会社が乗り入れている場合は、それぞれ別個にホーム番号をつける場合がほとんどだが、横浜駅のような例外もある(京急線が1・2番、JRは3~10番を使用)。ただしこの他に東急線・相模鉄道・横浜市営地下鉄などが乗り入れており、これらは独立したホーム番号を名乗っている。このあたり、いつまでも工事が終わらぬため「日本のサグラダファミリア」の異名を取る、横浜駅にふさわしいカオスっぷりである。
同じ神奈川県の小田原駅は、1・2番線が伊豆箱根鉄道、3~6番線がJR東日本、7~10番線が小田急、11番線が箱根登山鉄道、13・14番線がJR東海と、五つの鉄道会社が仲良く通し番号を分け合っている珍しいケースだ(12番線は欠番)。
欠番ホームの謎
さて、日本で最も多くのホーム番号がつけられている駅はどこか──正解は大方の予想通りJR東京駅で、28のホーム番号が存在する(以下、ホーム番号については特記のない限り全てJRの駅を扱う)。
だがその実態はなかなかややこしく、 欠番が三つ、1~4番線が三つ存在している。つまり、在来線が1~10番線、東海道新幹線が14~19番線、東北・上越・北陸新幹線が20~23番線を使っている他、総武線と京葉線の地下ホームがそれぞれ1~4番線まで存在しているので、ホーム番号の数は合計28となるのだ。
東京メトロ丸ノ内線の東京駅にも二つのホーム番号があるから、これを合わせればホーム番号の数は30にも達し、「東京駅1番線」は四つあるということになる。これを魔境と呼ばずして何と呼べばよいか、という話である。つくばエクスプレスの東京駅への延伸計画などもあるから、これらの数はさらに増える可能性がありそうだ。
ところで、なぜ東京駅の11~13番線が欠番なのだろうか? まず11番線は、機関車の回送用線路に充てられており、乗客の乗り降りするホームとしては存在しなかった。12・13番線はかつて東北新幹線に充てられていたが、1997年の長野新幹線(現・北陸新幹線)開業によって番号が足りなくなったため、22・23番に番号を改めたのだ(東北・上越・北陸新幹線はいずれも大宮経由のため同じホームを共有している)。こうした事情があるため、東京駅はホームの並び方もやや不規則になっており、利用者を迷わせる一因となっている。
京都駅のミステリー
さて、京都駅である。はじめに書いたように、同駅は34番線まであり、これが「日本で最大のホーム番号」となっているのは確かである。
しかし、じつは欠番ホームが日本で最も多いのも京都駅なのである。なんと15番線から29番線までがまるまる抜けている。これは、山陰本線のホームを「さん」と「3」の語呂合わせで30番線以降とした結果だ。
つまり、京都駅はホーム番号ではたしかに東京駅よりも「大きい」ものの、実際のホームの数では東京駅には遠く及ばない規模だということである。
じつは、京都駅にはもうひとつ妙なことがある。0番線があるのに、1番線がないのだ。「消えた1番線」……何やら鉄道ミステリーのような話である。
しかし、このミステリーも、実際はごく実務的な理由であった。京都駅が改修された際に、1番線の線路を潰してホームを広げた関係で、線路につけられた番号とホーム番号が一致しなくなってしまった。これが駅の運営上混乱の元になるということで、1番ホームを0番に改め、番号を一致させたのだ。
なぜ米子駅だけ「れいばんせん」なのか
0番線というホームは、全国に案外多く存在する。「ぜろばんせん」と読むことがほとんどだが、鳥取県の米子駅の0番線は「れいばんせん」と読むことに決められている。
ここは境線(さかいせん)の発着乗り場であり、その沿線にある境港市は「ゲゲゲの鬼太郎」の作者として有名な、水木しげるの出身地だ。このため境線には鬼太郎のイラストが描かれた列車が運行しており、その始発ホームは「霊番線」と名付けられているというわけである。
霊界の入り口たる霊番線に足を運べば、鬼太郎をはじめとした妖怪たちが出迎えてくれる――ファンなら一度は足を運ぶ価値がある駅だ。