巨人、セ5球団を圧倒し続ける“補強戦略” そろそろ“金満野球”も終焉か

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 セ・リーグ連覇に向けて快調に首位を走る巨人。9月に入っても、DeNAとの首位攻防戦で3連勝するなど、着々と他球団との差を広げている。巨人と言えば他球団の主力選手をFAで獲得する大型補強が“お家芸”と言われているが、今年の戦いぶりを見ていると少し印象が異なる。現在のレギュラーでFA組は丸佳浩だけで、投手も中継ぎの大竹寛くらいしか見当たらない。それ以外の補強を上手く活用して、層の厚いチームを作り上げているのだ。

 成功要因の一つ目が他球団とのトレードだ。今シーズンは開幕してから楽天と2件のトレードを成立させたが、最初に獲得したウィーラーは原監督の言葉を借りるのであれば「水を得たフィッシュ(魚)のごとく」生き生きとプレーしており、グラウンドはもちろんだがベンチでの様子を見ていても、注目度の高い巨人という環境を楽しんでいるように見える。期待された打撃も過去2年間の低迷が嘘のように安定した結果を残しており、貴重な得点源となっていることは間違いないだろう。

 2件目のトレードで加入した高梨雄平も、その交換要員が若手の有望株である高田萌生だったということもあって、当初は獲得に否定的な意見も多かったが、すぐに中継ぎ陣の一角に定着して、ブルペンには欠かせない存在となっている。長期的に見てどうかという意見もあるが、今シーズンに関しては2件とも巨人にとって大成功のトレードだったと言えるだろう。

 もう一つ今までの巨人にあまり見られなかったのが他球団で活躍できなくなった選手を再生させているところである。野手の代表例は中島宏之だ。移籍1年目の昨年はわずか8安打、打率.148と全く戦力にならなかったが、今年は一塁手として見事に復活。規定打席には到達していないものの3割近い打率を残し、度々勝負強いバッティングを見せてチームに貢献している。完全に終わった選手と見られていただけに、この復活には驚いているファンも多いだろう。

 もう一人が昨年日本ハムを戦力外となり、12球団合同トライアウトを経て育成選手として入団した田中豊樹だ。開幕から二軍で安定した投球を続けて7月26日に支配下登録されると、8月19日には故障で降板したメルセデスに代わって登板し、2回を無失点に抑える好投を見せて見事プロ初勝利をマークしている。ここまで防御率は5点台と少し安定感に欠けるところはあるものの、150キロを超えるスピードは魅力で、今後の飛躍も期待できそうだ。

 そして何よりも大きいのが若手の抜擢である。原辰徳監督は第二次政権でも積極的に生え抜きを引き上げて“育成の巨人”と言われた時期もあったが、復帰2年目の今シーズンも当時を思わせる起用を随所に見せているのだ。投手陣の代表格は何と言っても戸郷翔征だ。高校卒2年目ながら開幕ローテーション入りを果たすと、ここまでエースの菅野智之に次ぐ勝ち星をマークし、完全に先発陣の柱となっているのだ。体格的にまだまだ細く、肘が前に出ない“アーム式”の腕の振りを心配する声もあるが、首位を走るチームの立役者の一人であることは間違いない。

 投手でもう一人大きな戦力となっているのが高校卒4年目の大江竜聖だ。今年4月にサイドスローに転向して一気に才能が開花。7月31日の広島戦では1点リードの6回に登板して1イニングを無失点に抑え、プロ初勝利もマークしている。高梨とともに貴重な左の中継ぎとして日に日にその存在感は増す一方だ。また戸郷と同じ高校卒2年目の直江大輔も既に一軍で先発し、才能の片鱗を見せている。

 野手では、いずれも育成選手として入団した増田大輝と松原聖弥の台頭が目覚ましい。増田は、2年目の2017年に支配下登録されると、昨年は75試合に出場して15盗塁をマーク。今年も打席数は少ないものの、代走の切り札としてチームダントツの盗塁数を稼ぎ、盗塁王争いにも加わっている。また8月6日の阪神戦ではチームが大敗している状況で投手陣を温存するためにマウンドにも上がり話題となった。

 松原も1年目から二軍で結果を残して2年目の2018年に支配下登録されると、今年7月には初の一軍昇格。8月18日からはライトでスタメン出場を続け、9月3日のDeNA戦ではプロ初本塁打も放った。シュアな打撃とスピードに加え、8月27日のヤクルト戦ではライトゴロを完成させて原監督からも「満塁ホームランに匹敵するプレー」と称賛された。

 特筆すべきは活躍している若手がいずれもドラフト時点ではそこまで評価が高くなかったという点だ。直江はドラフト3位と高い順位だったが、戸郷と大江は6位、増田と松原は育成ドラフトでプロ入りしている。戸郷は先述したようにアーム式の腕の振り、大江は上背の無さが評価の低さに繋がり、増田は独立リーグ、松原は首都大学二部リーグ出身ということで注目を集める存在ではなかった。

 しかし、光るものを見出して指名し、その長所を上手く伸ばして一軍戦力としたことは大いに評価されるべきだろう。筆者はアマチュア野球の現場に足を運ぶことが多いが、最も顔を合わせるケースが多いのは巨人のスカウトである。スカウト陣の体制を巡っては、今年に入ってから不可解な人事異動はあったものの、現場での情報収集力については12球団でも屈指だ。6月には全国各地でアマチュア野球にかかわっている球団OBと契約したことが発表されたが、このあたりの動きも他にはなかなかないものと言えるだろう。

“金満”と批判されることも多いが、今の強さの要因は決してそれだけではないことは間違いなさそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月10日掲載

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