「安倍総理」の言葉はなぜ響かないのか 「角栄節」「小泉語録」と比較

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 8月28日、衝撃の辞任表明会見に臨んだ安倍総理の言葉には、まさに「力」が感じられなかった。

「悩みに悩み」

「痛恨の極み」

「断腸の思い」

 国民に申し訳ないという「心情」は伝わってくるものの、どれも言葉が定型的で、血が通っているようには感じられず「真情」をくみ取れない。例えば、小泉純一郎元総理は退陣を控えて、

「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」

 と、細川ガラシャの辞世の句を引用してみせた。また田中角栄元総理も、辞任表明の朝に自分を心配する母親と連絡をとったとして、

「母はやっぱり母だなー」

 こう涙ぐみ、人情味で人の心を掴んだ。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏はこんな感想を抱く。

「安倍さんはこれまでも『空前絶後』や『全身全霊』といった勇ましい言葉を使ってきましたが、なぜか彼の心の内側から出てきた言葉という感じがしませんでした。振り返ってみても、心に刺さる名言は思い当たりません。それは、自分の心境を説明する自信がなく、スピーチライターの原稿をそのまま読んでいるからなのではないでしょうか。そのため、安倍さんの言葉にはメッセージ性が感じられないのです」

 いずれにしても、最長政権を築いた総理の辞任表明の言葉としては物足りなさが残ったが、その会見でもうひとつ気になったのは、

「大切な政治判断を誤ることがあってはならない」

 というセリフである。

 無論、その誤りは「体調」の不良によってもたらされ得るものなのであろう。誰しも、肉体が病んでいれば判断力は鈍る。しかし一方で、会見での安倍総理の「いつも通り」の姿を考慮してみれば、果たして、正常な判断を阻害する「他」の要因はなかったのだろうか。

「安倍総理は8月17日と24日の2回、慶応大学病院で受診しています。そして、2回目の際に辞任を決めたと言っていましたが……」

 とした上で、官邸関係者が声を潜める。

「実際は、1回目の時点で辞任を決めていたのではないでしょうか。というのも、その時、安倍総理は消化器内科で持病の潰瘍性大腸炎の診察を受けた以外に、『他の科』でも診察を受けているようなんです」

 政治部記者が後を受ける。

「確かに、菅官房長官もオフレコで『1回目の時に辞めそうな雰囲気を感じた』と漏らしていました」

 では、その日に何があったのか。ある消化器内科の専門医は、一般論としてこう解説する。

「潰瘍性大腸炎の症状はストレスとの相関性が高いと言われています。症状が悪化した際、場合によっては精神安定剤や睡眠薬を使うこともあります」

 肉体だけでなく心が傷ついていたのだとしたら……。

週刊新潮 2020年9月10日号掲載

特集「日々没する国ニッポン『菅義偉』総理への道」より

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