「周防正行」監督が明かす創作論 「いい監督ほど妥協する」

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いい監督は妥協の仕方がうまい

周防 映画監督って、いい加減にならざるを得ないんですよ。予算とか役者のスケジュールとか、いろいろ制約があるから。本当はナイトシーンで雨を降らせたいけど、それができないとなったらデイシーンで代わりに何するんだって、そういうことの連続。だから、どこまでをOKとするのか、どこで妥協するのかの判断が大事です。

二宮 妥協の量は多いですか。

周防 多いですよ。まず、役者がいない日にその人が出るシーンは撮れません。屋外のシーンなら天気の問題もあるし、予算の制約は付きまとう。映画を撮るというのはそういうことですから、映画監督は全てをコントロールしてるんじゃなくて、妥協点をコントロールしてるんです。だけど、その妥協が思わぬ効用になることもあるんですよね。

二宮 面白いな。

周防 スケジュールの都合でこの日しかなくて、でもそのおかげでこんないい画が撮れましたということもあるわけだし、そういう偶然性も含めてどこでOKと言うかですよね。自分が狙っている画が撮れないからといって待ちに待ったら、撮影日数が切羽詰まって結局ほかで大幅な妥協をしなきゃいけなくなったとかね。バランス良く妥協していくってことができないと。

二宮 バランス良く妥協する。

周防 ここは7割でOKにするけど、このシーンはせめて9割までは頑張ろうとか、自分の中で決めないと。だから、クランクインしたばかりのころは軽いシーンから入りたい。撮り始めの段階で全体の流れなんて自分の中でも掴めてないですから。たぶん、初日、2日目の撮影はリテイクしたいと思う映画監督は多いと思います。いや、始まってから1週間くらいのシーンはリテイクさせてという気持ちがあります。わからないんですよ。

二宮 へーっ。

「人間の想像力なんて大したことない」

周防 そのあとで、だんだん映画の流れが見えてきて、こういう流れだったら最初のシーンはOKじゃなかったなとかあるんですよ。シナリオという文字で成立しているものを現実の場所と人間で撮影していくとこんな感じになるのか、と撮影しながらわかっていくんですよね。

二宮 本当に手探りで。

周防 撮影していく中で、ここからがOKでここからはNGだって映画の中の基準が見えてくる。最初から自分の中のイメージを再現していくなんてことにはならない。人間の想像力なんてたいしたことないんで、撮ってみて初めてわかることがたくさんあるんですよね。だから、上手に自分の妥協点を見つけていかないといけない。

二宮 生活のために映画は撮らないというお話でしたけど、監督が商業映画を作っていらっしゃるのはやりたいことが商業映画と一致しているということですか。

周防 いいえ、自分が描きたいものを商業映画という枠組みの中で実現する。人にお金を出してもらえる形で映画にして、それを多くの人に観てもらう。ヒットすることで出資者が撮影資金を回収して、利益を出す。これが自分の土俵ですね。商業主義的なものと相容れずにやるなら、自分のお金でやるしかないけど、それでは自分がやりたい映画のクオリティを実現するのは難しい。それでも、どうしてもやりたいことが商業的なものになりえないとなれば、なんとか自分でお金を集めるでしょうけど、今までのところそういう状況になることはなかった。「それでもボクはやってない」は、そうなることをどこかで覚悟していたけど、結果として東宝で実現できました。

周防正行(すおまさゆき)
1956年東京都生まれ。立教大学文学部在学中より映画監督を志す。96年、社交ダンスブームのきっかっけとなった「Shall we ダンス?」で第20回日本アカデミー賞13部門独占受賞。最新作「カツベン!」DVD発売中。

二宮敦人(にのみやあつと)
1985年東京都生まれ。“一橋大学競技ダンス部”卒。2009年に作家デビュー後、フィクション、ノンフィクション問わず作品を発表している。近著に『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』(新潮社)。

週刊新潮 2020年7月30日号掲載

特別対談 「周防正行(『Shall we ダンス?』監督)×二宮敦人(『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』著者) めくるめく『社交ダンス』の世界」より

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