「周防正行」監督が明かす創作論 「いい監督ほど妥協する」
「面白くない」と言われたら傷つくけれど…
周防 さっき、「それでもボクはやってない」のシナリオを弁護士に読んでもらったという話をしましたが、基本的には、シナリオを書き上げたら誰かに読んでもらうんです。製作会社の人たちはもちろん、それ以外に、友達の顔を思い浮かべて、あいつだったらどんなふうに読むのかなとか。まったくこういうこと興味ないだろうなという人に読んでもらうとかね。
二宮 へえ。ぼくは妻と編集者さんだけです。
周防 やっぱり、人に読んでもらうって嫌じゃないですか。面白くないとか、わからないと言われたら傷つくし（笑）
二宮 すごくわかります。
周防 だけど、シナリオが世に出るんじゃなくて、シナリオをもとにして作った映画が世に出るわけだから、シナリオ段階で言われたほうがいいと思って我慢してるんです。
二宮 ぼくももっと精神を鍛えなければ（笑）
周防 人の意見でテーマを変えることはないけど、伝え方は人の意見を聞いて何度も考え直します。ようするに感想を踏まえて直すのは、自分の思想信条というか、想いを曲げるんじゃなくて、伝え方を工夫する。そんなテーマに興味ないと言われたとしても、そういう映画を作りたいだけだから、と居直ります。もしかしたら、僕が描きたいことが伝わっていないだけかもしれないし。だから「これ、わかんないんですけど」と言われたら「どういうふうにわからない？」と聞く。
二宮 そうですね、伝わらなかったらもったいない。
「誰がこんな映画観るの？」
周防 「シコふんじゃった。」も「Shall we ダンス？」も企画段階では「誰がこんな映画観るの？」って言われたんです。
二宮 えっ。
周防 他人の意見って面白いですよ。「シコふんじゃった。」の場合、タイトルは早めに決まったんですけど、映画業界で賛成してくれた人はほとんどいなかった。ほめてくれたのは門外漢のひとりだけで、業界では反対されまくりでした。で、彼らの対案はというと、「はっけよい」。そういうセンスじゃないんだよ、この映画は、と思ったことを覚えてます。
二宮 僕はタイトルが全然決められなくて。何らかの案は浮かぶんですけど、別の案を出されるとすぐに揺らいでしまうんですよ。
周防 タイトルって難しいですよね。
二宮 だから、揺らがないっていうのは羨ましい。
周防 いや、揺らぐときはありますよ。「Shall we ダンス？」も自分が発見したタイトルですけど、映画会社の人もいっぱい考えてくれる。で、いろいろなアイデアを前に、揺れながら、ピンと来るまで待つ。映画ができる前にその映画の世界観を持っているのは監督だから、そういう意味では最後は僕が決めるのが一番素直だろうと思うんです。
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