郵便局網を使って地方を活性化させる――増田寛也(日本郵政株式会社取締役兼代表執行役社長)【佐藤優の頂上対決】
グループをつなぐサービス
佐藤 地域の活性化に寄与していく一方、民営化されたわけですから、収益も出していかねばなりません。そこはどんな戦略をお持ちですか。
増田 郵便・物流に関しては、同業他社に比べ、物流の仕組みが古いと言われてきました。でもこの数年でかなり合理化を図り、競争力がついてきた。とくに小物です。例えば、ポストに投函すればそのまま郵便受けまで届く「ゆうパケット」は、手軽なサービスとして伸びています。
佐藤 「レターパック」や「レターパックライト」「スマートレター」も、たいへん便利です。封筒を買っておけば、ポストから出せて、レターパックなら追跡もできる。よく使っています。
増田 ありがとうございます。他社なら少なくとも小型車を使わなければならないところを、私たちは小物ならばオートバイに載せて配達できます。だから小物の配達が収益源になってきている。それがコロナでさらに伸びています。
佐藤 メルカリなどで物を送る時も「レターパック」や「レターパックライト」で事足りることが多いと思いますね。
増田 eコマースやちょっと前まではなかったメルカリなどの新しい形態のサービスで、郵便・物流をどう収益源とするかも検討しているところです。
佐藤 そこは相性がいいと思いますよ。
増田 また日本郵政グループ全体としては、それぞれ持っている強みを最大限生かせる仕組みを考えています。郵便、ゆうちょ、かんぽを融合したサービスですね。例えば、「ゆうちょPay」をうまく利用したい。何かを買って決済をして、それを自宅まで届けることを一気通貫、流れるようなサービスとして展開できないかと考えています。こうしたことはアイデア次第なので、いま若い世代にいろいろ考えてもらっています。
佐藤 日本郵政グループはもともとシステムの強さがあります。私の高校時代の友人に、豊島昭彦という人がいました。元は日本債券信用銀行ですが、ゆうちょ銀行に移ってシステム部門の部長を数年間務めました。彼が、ゆうちょ銀行のシステムは日本一だと言っていましたね。顧客数が桁違いに多く小さなミスが大規模トラブルに発展してしまうという緊張感の中でシステムを維持していることや、キャッシュカードのみならず通帳だけでお金が出し入れできること、払い込み用紙だけで送金できることなど、通常のシステム力では無理だと感嘆していました。
増田 本にお書きになった方ですね。
佐藤 ええ。彼が亡くなるまでの交流を、昨年『友情について』という本にまとめました。
増田 通帳でお金を下ろせるようにしたのは、先人の知恵ですね。機械の価格はやや高くなりますが、高齢者にとってはすぐに数字で確認できますから、とても便利な仕組みです。
佐藤 新しい試みとして、地方銀行とも提携されていますね。
増田 奈良県の南都銀行や島根県の山陰合同銀行と提携し、郵便局にATMを置いたり、その窓口で住所変更や通帳発行の手続き事務を代行するなどしています。地銀はどこも支店を整理して固定費を削っていきたい。だからニーズはあります。最初は歴史的に競争関係にあったために警戒されていたようですが、いまはうまくいっています。地方が厳しい時代にはお互い連携していったほうがいい。これにはずいぶん問い合わせが来ています。
佐藤 地銀の再編という問題もあります。そこでゆうちょ銀行が重要なプレーヤーになっていくことは間違いないでしょう。
増田 やはり郵便局2万4千のリアルなネットワークが地方の隅々まであることは大きいですね。そこにデジタル化の対応をきちんとすることができれば、ものすごく大きな仕組みが生まれてきます。
佐藤 いまメガバンクは、お客さんの顔を見て、出されるパンフレットが変わったり、応対が違ってくる。富裕層なら窓口ではなく奥の部屋に通されたりもします。でも日本郵政グループはその方向性とは根本的に違いますよね。銀行も保険もカテゴリー分けをしないで、フラットな形でサービスを作っている。
増田 そうですね。国民の広い層に必要な商品をきちんとお届けする。日本全国で地域の差を作らず、富裕層かどうかも関係なく、ユニバーサル(全国一律)なサービスを提供していくのが私たちの役目です。
佐藤 いまは経済が大きくグローバル経済とローカル経済に分かれてきていますが、まずはローカルに軸足を置いて、そうしたサービスを拡充していくという感じですか。
増田 とりあえずはそうですね。海外に出ていくことは必須ですから、その仕掛けは作っていきます。でもまずは日本のローカルをどうするかというところから始めようと思っています。
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