郵便局網を使って地方を活性化させる――増田寛也(日本郵政株式会社取締役兼代表執行役社長)【佐藤優の頂上対決】
今年1月、かんぽ生命の不祥事に揺れる日本郵政社長に就任した元総務大臣・増田寛也氏。グループ41万人、全国2万4千の郵便局を擁するこの巨大組織の規律をどう正し、どこへ導こうとしているのか。「地方消滅」への警鐘でも知られた地方行政の第一人者が語る、郵便局「地方再生」計画。
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佐藤 2016年の選挙では、私は増田さんに一票を投じました。
増田 ああ、都知事選挙ですね。
佐藤 いまの小池百合子知事が初当選しましたが、地方が疲弊している状況をよく把握されている方が、東京という地方のトップになることは日本のためになると思ったのです。
増田 ありがとうございます。そうお考えでしたか。
佐藤 あの時、小池さんが自民党から推薦をもらうかどうか揉めに揉めた後だっただけに、自民党の推薦を得て出馬するのは非常に難しい決断だったと思います。今回、日本郵政社長を引き受けられたことも、同じように大変な選択だったはずです。
増田 郵政民営化委員会で委員長になったり、総務大臣を務めたことから白羽の矢が立ったのでしょうが、普通の民間の経営者だったら、状況があまりにも混乱していて、まず引き受けないでしょうね。
佐藤 昨年末、かんぽ生命保険商品の不適切契約問題でグループ3社(日本郵政、日本郵便、かんぽ生命保険)の社長が引責辞任し、いわば立て直しに入られたわけです。重責を担う決断は、どのようなお気持ちでされたのですか。
増田 引き受けたのは、私がわりと楽観主義というか、物事を悲観的に考えない性格に起因しているのかもしれませんね。ただそれとは別に、日本郵政グループは、政治との間合いが微妙です。歴代、立派な経営者が外部から来て指揮を執りましたが、政治との関係から途中で袋小路に入ってしまったように見えました。
佐藤 元三井住友銀行頭取で「最後のバンカー」と呼ばれた西川善文氏や大蔵事務次官だった斎藤次郎氏など、確かに錚々たるメンバーがトップに就きました。
増田 かんぽ生命の不適正募集問題を生んだ体質も、民営化が進んでいく中で、ある程度は解決されていくべき問題だったと思います。でも官の体質が残ったまま見過ごされてきてしまった。政治に翻弄されることなく、誰かがもっと勇気を持って変えていく必要があったんですね。そうした状況下で声が掛かったわけですから、これまで多少なりとも政治に携わった経験も生かしてやらなければならないな、という思いになりました。
佐藤 組織の構造的な問題として不正が起きてしまった場合、中からはそれが悪いことなのか実感できないし、なかなか手も打てないものです。民営化されると、やはり数字を上げなさいということになる。そのプレッシャーの中で、すでにある保険契約を別の保険に乗り換えさせるなどして実績を伸ばそうとしたのは、構造的なものです。
増田 確かにそうですね。
佐藤 外務省時代の大規模なホテル関連の不正を思い出します。かつて外務省では職員に外務省員手帳が配られていました。そこに載っている一流ホテルの特別な電話番号に掛けると、部屋が5割引になるなど、いろいろ便宜が図られていた。普段からいろいろな国際会議があって利用していますから、それが当然だと思っていたんですね。さらに経費を正規料金で請求して差額をプールし、これも当たり前のように課の懇親会や送別会の会費に充てていました。
増田 私の岩手県知事時代にも、岩手県のみならず、さまざまな県で裏金が問題になったことがありました。カラ出張等のデタラメなやり方などで裏金を作りプールし、宴会費用を出したり、中央官庁からやってくる役人の接待をした。あの問題は、その後、職員も私もかなりの額を寄付するという形で県に戻しました。
佐藤 外務省でもランクに応じて弁済しました。不正に手を染めていても組織ぐるみだと、それを当たり前と思っているからやっかいです。指摘されると最初は反発します。社会から大きく指弾されるようになって、ようやくマズいと認識する。
増田 確かに内部の慣行には、中から手をつけづらいですね。
佐藤 お金でなくても、私がいま懸念しているのは、ヤミ勤務です。コロナでのリモートワークや働き方改革で、勤怠管理をパソコンで行うことが増えている。パソコンを起動させている時間で管理するわけです。でもシャットダウンさせた後にUSBメモリに入れたデータを使って、個人のパソコンで仕事を続ける人が出てきます。するとその人は成果を出す。一人がそうなると、みんなヤミ勤務せざるをえない状況が生まれてきます。
増田 県庁の裏金にしても、ヤミ勤務にしても、見方によっては組織のために良かれと思ってやった部分があると、なかなか改められない。
佐藤 裏金で私腹を肥やしていたわけではないですから。夜遅くまで仕事して、国益のためになると思ってやっている。民間の場合も、業績を上げれば文句は言われないと思うのは当然です。
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