FAで争奪戦は必至… 「中日・大野」「西武・増田」「ライアン小川」の有力移籍先は?

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 昨年は移籍した3人が全てパ・リーグ内に収まったプロ野球の国内フリーエージェント(以下FA)戦線。今シーズン中に新たに国内FA権を取得する選手では、山田哲人(ヤクルト)が最大の目玉と見られていたが、ここへ来て状況が変化してきている。まず山田が開幕から調子が上がらず、7月27日には上半身のコンディション不良で登録抹消となり、8月13日に一軍復帰を果たしたものの例年のようなパフォーマンスを見せることができていない。これまでの実績は十分なだけにFA宣言すれば争奪戦となることは間違いないが、より良い条件を引き出すために権利の行使を1年見送ることも十分に考えられるだろう。

 そんな中で新たな目玉候補がここへ来て浮上してきた。一人目が中日のエース、大野雄大だ。開幕から6試合は勝ち星なしで0勝3敗と躓いたものの、7月31日のヤクルト戦から9月1日の広島戦まで球団タイ記録となる5試合連続完投勝利をマークして見せたのだ。

 しかも5試合中4試合で二桁奪三振を記録しており、直近の2試合は完封とその内容も圧巻だ。2018年はシーズン0勝と苦しんだが、昨年は初のタイトルとなる最優秀防御率も獲得しており、見事な「V字回復」を見せている。先発左腕はどこも欲しいだけに、FA権を行使するようなことになれば複数球団が手を挙げる可能性が高い。

 筆頭と見られているのが大野の地元である関西を本拠地とする阪神だ。大野は子ども時代から大の阪神ファンであり、現在つけている背番号22は先日引退を発表した藤川球児への憧れから選んだことも公言している。ただ、ファンだから移籍するという単純なものではもちろんないが、阪神のチーム事情を考えても先発タイプのサウスポーは不足しており、補強ポイントにもマッチしていることは間違いない。

 また、大野自身が阪神相手に強いということもあり、阪神にとっては天敵がいなくなるというメリットもありそうだ。セ・リーグではFAに最も熱心な巨人も当然手を挙げる可能性はあるが、ダークホースとしてありそうなのがヤクルトだ。慢性的な投手不足は続いており、先発左腕となると大ベテランの石川雅規以外では移籍組の山田大樹と若手の高橋奎二くらいしか見当たらない。また、ここ数年間の成績を見ると大野はヤクルト戦に苦しんでおり、大野自身にとっては苦手な相手がなくなるというメリットもある。FAでの補強に熱心な球団ではないが、これだけ補強ポイントと本人のプラスが重なるということになれば、獲得に乗り出す可能性もありそうだ。

 パ・リーグでは阪神と同じく大野の地元で先発左腕が不足しているオリックス、昨年大型補強を行った楽天なども候補となりそうだが、大野の2017年以降の交流戦での成績が芳しくないことが獲得へのブレーキとなりそうだ。

 そして、大野以上に争奪戦が激しくなる可能性があるのが、西武のクローザー増田達至である。大野と同様に2018年には成績を落としたものの、昨年は自身初となるシーズン30セーブをマークするなど見事に復活。今シーズンも8月中旬に3試合連続で失点を許したものの、1イニングあたり出塁を許した走者の数を示すWHIPは0点台と見事な成績を残している。コンスタントに150キロを超えるスピードに加えて高い制球力を誇り、今年も23回を投げて与えた四球はわずかに1というのは見事という他ない。

 FA宣言した場合に真っ先に獲得する候補に挙がるのは楽天だ。昨年まで抑えを務めていた松井裕樹が先発に転向し、シーズン当初は森原康平、現在はブセニッツがクローザーとなっているが、どちらも安定感には欠ける印象だ。

 投手では岸孝之、涌井秀章、牧田和久、野手では浅村栄斗と西武出身の選手が多いことも増田に対するアピールポイントとなりそうだ。パ・リーグの他球団ではオリックスもリリーフ陣に苦しんでいる。昨シーズンの途中からディクソンが抑えを任されてそれなりの成績は残しているものの、今年で36歳という年齢を考えるとこれ以上は望みづらい。若手にも楽しみな速球派は少なくないが、実績抜群で余力も十分な増田は喉から手が出るほど欲しいはずだ。増田の地元が関西ということも獲得への後押しになるだろう。

 セ・リーグではやはり巨人が強力な対抗馬となる。抑えにはデラロサがいるものの、日本でまだ1年を通じて働いた経験はなく、今シーズンも故障で1カ月以上戦列を離れていた。大型契約を提示できるだけの資金力があり、また増田が現在プレーしている関東の球団ということで大きく環境が変わらない点はプラスとなりそうだ。

 もう一人忘れてはいけないのが小川泰弘(ヤクルト)だ。ルーキーイヤーの2013年に16勝をマークして最多勝を獲得してからは徐々に成績を落としていたが、今年はここまでリーグ2位タイの7勝と見事に復活。8月15日のDeNA戦ではノーヒット・ノーランも達成している。リーグワーストの12敗を喫した昨年と比べるとチェンジアップ、フォークのブレーキと精度が明らかに良くなり、そのことでストレートが蘇った印象だ。投手陣が苦しいだけにヤクルトは全力で慰留することが予想されるが、慢性的な投手不足に悩む西武などは補強ポイントにマッチしていると言えるだろう。

 シーズンはまだ約半分を残しているが、今年はセ・リーグのクライマックスシリーズが行われず、パ・リーグも2位以上で行うことから、早めに来季の編成を考える球団は例年以上に多くなる。そのような事情も激しいFA獲得競争に拍車をかけることになりそうだ。

(本文中の成績は9月2日試合終了時点)

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月5日掲載

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