「樹木希林さん」書斎に遺された「100冊の蔵書」リスト 死生観に影響を与えた宗教書も
晩年増加した宗教書
13年に“全身がん”を告白してからは、仏教や宗教の本が増えました。告白の翌年に手に入れたのは、鈴木大拙の『仏教の大意』。
希林さんは、「因果が来れば因果を迎え入れて心緒晏然(あんぜん)です。死ぬときに死にます、生まれるときに生まれます。生まれて喜ばず、死んで悲しまず、晏然としています」という部分に赤線を引きました。晏然とは心がやすらかになるという意味です。
その本の最後の頁に、希林さんは悟りの証として「陽気に 坦々として 而も 己を売らないことを と、わが魂の願ふことであった」という句をつくり、貼り付けています。
13年に発売された、矢作直樹(東大教授)・村上和雄(筑波大名誉教授)の『神(サムシング・グレート)と見えない世界』には、96カ所以上、蔵書の中でいちばん多くの傍線が引かれていました。
たとえば村上の言葉、「アンチエイジングはムダなのです。(略)つまり加齢という自然法則には勝てません。(略)むしろ『見事に死ぬ』『どう老いるか』を論じるほうが、健康的で自然です」に印がつけられています。
希林さんの見事な死に方は、ここからスタートしたのだと思います。「死ぬときぐらい好きにさせてよ」という彼女の広告のコピーを彷彿とさせます。
(「週刊新潮」2020年8月13・20日号掲載)
〈記事の全文は下記サイトで購読できます〉
[3/3ページ]