「この人たち、超人だな」 訪問入浴サービスの手際に感嘆した日──在宅で妻を介護するということ(第7回)
無垢な介護の心と、とびきりタフな肉体
「これって完璧な肉体労働ではないか。お年寄りや障害者に入浴の喜びを届けたいという介護の心があっても、それを上回る強靭な体力の持ち主でなければ3日と続かない。この人たち、細いカラダで超人だな」
機材の搬入から撤収まで45分間、訪問入浴の一部始終を見させてもらった正直な感想がこれだ。最低でも午前と午後にこれを2回ずつ計4件、忙しい日は1日8件を同じスタッフで回るという。
耳栓をつけてシャンプー・リンスつきの本格的な洗髪を行い、「かゆいところありませんか」の一言を忘れず、身体が冷えないようにつねに足元にお湯を注ぎながら身体を洗う。入浴介助の場面だけをとっても大変だ。いちばん印象に残ったのは、3人の息の合った連携プレーと作業の段取りの良さだ。テレビの生中継で、CM中に大道具さんがセット転換をするような手際よさと言おうか。終わった後のフローリングの床や廊下には、水滴一つ落ちていなかった。
訪問入浴サービスにはどんな資格が必要なのか、ちょっと調べてみた。訪問入浴は基本、3人が一組となって動くが、そのうちの1人に看護師または準看護師の資格が求められる。残る2人(管理者、介護職員)は未経験・無資格でも構わない。事業者数は予想以上に少なく、千葉市内で13(緑区内は3)事業者しかいなかった。
今、病院での人間関係に悩んだ看護師さんの転職先として、訪問入浴が浮上しているという。確かに素晴らしい仕事だ。高齢者や障害者の家族から尊敬を集める仕事だということは、私が保証する。ただ、体力的にかなりきつい仕事で、よほどの信念というか情熱がないと続かない仕事だと私は思う。
ある時私は、リーダーの女性に聞いた。
「介護保険事業なのでサービス料金を自由に設定できない。超ハードな仕事なのにわりに合わないね」と。
するとその看護師は答えた。
「もし自由に価格を決められたら、私なら料金(ウチの場合、自己負担約1400円)をもっと安くします。だって、今は高過ぎるでしょ。利用したくても経済的に難しい人もいますから」
この人にはとてもかなわないと思った。
こうして、訪問入浴の段取りばかりに目を奪われて、初入浴の妻の様子はほとんど目に入らなかった。彼らが帰った後、妻はホッコリどころか体力を消耗しぐったりとした様子で、そのまま夜遅くまで目を覚まさなかった。寝顔を見ると確かに皮膚の汚れが落ち、色白の素顔が戻っている。もっと早く入れて上げればよかった……。初めての訪問入浴はこんな感じで終わった。
それから1年半余り、週1回・日曜3時の訪問入浴は84回を数えた。しかも皆勤賞である。健康な人でも風邪をひいたり、体調を崩して入浴をパスすることがある。しかし、妻の体調が大きく落ち込むことはなく、風呂に入れようかどうか迷ったことすらなかった。これは密かな私の自慢である。冷房時の窓の数センチの開閉、季節の変わり目の下着の選択(半袖・長袖・あるいはTシャツ)、就寝時の毛布1枚かけるかかけないかの判断に誤りがなかったと自負している。
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