「この人たち、超人だな」 訪問入浴サービスの手際に感嘆した日──在宅で妻を介護するということ(第7回)
世界的に見れば、浴槽に体を沈めるタイプでの入浴はさほどポピュラーではないのかもしれない。そもそもそういう習慣があまりない国もあれば、環境的に困難なところも多い。
しかし、日本に生まれ育った多くの人にとって、入浴ができないことはとても辛いことだ。介護される側の生活の質を考えた場合にも、入浴は大きな要素となりうるが、一方でその手間は大変だというのは想像に難くない。
実際に妻を自宅で介護しているライター、平尾俊郎氏は、訪問入浴サービスに関わる「プロ」たちの手際に感動を覚えたという。68歳夫による62歳妻の在宅介護レポート、今回のテーマは「訪問入浴」である。
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【当時のわが家の状況】
夫婦2人、賃貸マンションに暮らす。夫68歳、妻62歳(要介護5)。千葉県千葉市在住。子どもなし。夫は売れないフリーライターで、終日家にいることが多い。利用中の介護サービス/訪問診療(月1回)、訪問看護(週2回)、訪問リハビリ(週2回)、訪問入浴(週1回)。在宅介護を始めて1年半になる。
初めての訪問入浴サービス
初めて「訪問入浴」サービスを受けたのは、妻も私も「在宅」のリズムにようやくなじんだ10日目くらいのことだった。
妻が風呂に入るのはおそらく3カ月ぶりだ。2つの病院に入院していた間はベッドを離れられる状態になく、風呂はおろかシャワーすら浴びる機会がなかった。「清拭(せいしき)」といって、看護師さんがきれいなタオルで体を拭いてくれただけなので、当人もおそらく心待ちにしていたと思う。年の暮れ(12月30日)ということもあり、身体も心もリフレッシュして新しい年を迎えさせてあげたかった。
久しぶりにお湯に浸かったらどんな顔をするだろうか。無事に家に帰ってきたことを、お湯のぬくもりを通して感じてくれたらいい。眉間のあたりの力が抜け、ほっこりとした顔を見てみたかった。
実は私も、この日を楽しみにしていた。というのは、介護施設の風呂場や機械浴設備などはたくさん見てきたが、訪問入浴の現場に立ち会ったことは一度もなかったからだ。実際の仕事ぶりを見るのはこれが初めて。何を隠そうついこの間まで、ユニットバスを内蔵したクルマが家までやって来て、車内でサービスを受けるものとばかり思いこんでいたのだ。
実際は、全長約2m・幅75cmのバスタブ(真ん中で分割。ドッキングして利用する)を部屋に搬入し、自宅の風呂場の蛇口からホースで引いたお湯を溜めて入浴する。あとでスタッフに打ち明けると、私と同様の勘違いをしている人が結構いるらしい。
さて、問題は場所だ。3LDK・66平方メートルのわが家に、どこにそんなスペースがあるというのか。リビングのテレビの前くらいしか考えられないが、ネコの額ほどの面積しかない。何とかバスタブを搬入できたとしても、こんなところで身体を洗ったらソファーやサイドボードは水浸しになってしまうのではないか。事前にスタッフがロケハンをしたので大丈夫なのだろうが、当日、設置してみるまでは半信半疑だった。
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