「巨人」が今秋のドラフト戦略で“異例の方針” 1位候補で狙う有力選手は3人
甲子園での交流試合、全国での独自大会も終わり、今秋のドラフト会議に向けて各球団候補選手を絞り込む時期に入ったが、そんななか、大きなニュースが飛び込んできた。8月28日に編成会議を開いた巨人が、今年のドラフト1位では野手の即戦力を狙うと公言したのだ。大塚淳弘球団副代表は「足りないのは投手と外野手」ともコメントしていることから、大学生か社会人の外野手を最優先で狙うことになりそうだ。
巨人は過去3年間のドラフトでいずれも最初の入札で高校生を指名してきたが、ここへ来て主力野手の不振もあってか、大きく方針転換したこととなる。しかし、これまでのドラフトを振り返ってみても、大学生、社会人の外野手が人気となった例は少ない。過去10年間でも最初の入札で1位指名を受けた大学生、社会人の外野手は伊藤隼太(2011年阪神1位)、高山俊(2015年阪神1位)の二人だけであり、巨人の1位指名では2009年の長野久義まで遡ることになる。いかに“異例の方針”かがよく分かるだろう。
では、果たして候補となる選手は誰になるのだろうか。
大塚副代表は「特にパワーヒッターが足りない」とも話しており、そういう意味で最有力と見られるのが佐藤輝明(近畿大)である。近畿大では入学直後からレギュラーを獲得し、昨年秋までにリーグ戦通算11本塁打を放っている左のスラッガーだ。
ちなみに関西学生リーグの通算歴代最多本塁打は二岡智宏(元巨人)の持つ13本であり、新型コロナウィルスの影響で春のリーグ戦が中止となっていなければ、この記録を更新する可能性も高かっただろう。
そんな佐藤の持ち味は日本人離れした体格からの圧倒的な飛距離だ。芯でとらえた打球は軽々とフェンスを越え、スタンド中断まで届くことも珍しくない。昨年はサードとファーストを守っていたが、大型でありながら脚力も備えており、下級生の頃は外野手としてもベストナインに輝いている。巨人の補強ポイントには確かにマッチしているといえるだろう。
だが、「即戦力」というキーワードに当てはまるかというと大いに疑問が残る。過去6度のリーグ戦で打率3割を3度記録しているが、確実性に関してはまだまだという部分が多く、昨年秋のリーグ戦では打率1割台と不振に陥っている。特に縦の変化球への対応力はまだまだで、プロでも1年目からの戦力とは計算できないだろう。
即戦力を重視した時に名前が挙がってくるのが、今川優馬(JFE東日本)だ。大学は地方の東海大北海道でプレーしており、リーグ戦で初めて規定打席に到達したのは4年春という遅咲きの選手だ。しかし、最終学年の2シーズンで9本塁打を放って社会人に進むと、1年目の昨年は強打の2番打者として、チームの都市対抗優勝に大きく貢献。昨年のドラフト1位である宮川哲(西武)からもライトに目の覚めるような一発を放っている。少しアッパースイング気味のフォロースルーで癖のあるスイングをどう見るかという判断はあるものの、レベルの高い社会人野球でこれだけ実績を残しているのは心強い。
また、強打のイメージが強いものの、脚力と肩の強さも申し分なく、外野手としての総合力が高いのも魅力だ。佐藤に入札すると見せかけておいて、今川を確実に獲得するという戦略も考えられなくはないだろう。
ポジションを問わずに大学生、社会人で最も安定した打撃の持ち主ということになると、牧秀悟(中央大)が筆頭候補となる。中央大では早くからショートのレギュラーとなり、下級生時代は少し調子の波があったものの、セカンドにコンバートされた昨年は春に首位打者、秋にはMVPと見事な成績を残し、3年生ながら大学日本代表の4番も任せられた。
下半身の強い安定したスイングで広角に鋭い打球を打ち分け、昨年の春秋のリーグ戦で放った33安打のうち半分以上の18安打が長打とパンチ力も申し分ない。8月13日に行われた巨人二軍とのオープン戦でも、桜井俊貴から一発を放つなど、最終学年でも順調にアピールを続けている。本職は二遊間の選手ではあるが、脚力と肩の強さもあるだけに外野へのコンバートも十分に可能と言える。次期監督の最有力候補である阿部慎之助二軍監督の後輩にあたるというのも、巨人にとっては指名しやすい要素と言えるだろう。
ドラフト会議まであと約2カ月あり、これから本格的に始まる大学野球の秋季リーグ戦、社会人野球の都市対抗予選の状況によって方針が変わることも予想されるが、坂本勇人、丸佳浩の看板打者二人の不振が続いているだけに、野手中心という戦略は妥当であることは間違いない。次世代の巨人を担う選手として1位指名を受けるのは果たして誰になるのか、今後のドラフト戦線から目が離せない。