生産性を上げるために日本は何をなすべきか――デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)【佐藤優の頂上対決】

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中小企業問題

佐藤 そこで問題になってくるのが、中小企業であると指摘されてきました。

アトキンソン 労働生産性を大企業、中堅企業、小規模事業者に分けて考えてみると、日本の大企業の生産性は海外と比べ、それほど変わりません。中堅企業は多少低いくらい。そして小規模の会社は圧倒的に低い。

佐藤 そうすると、問題の在り処は明らかです。

アトキンソン しかも中小企業の数は358万社で、全体の99・7%を占めます。小規模事業者が305万社で84・9%、中堅企業は53万社、14・8%です。従業員の数で見ると、中小で全体の68・8%を占めます。生産性が低い企業が大きな構成比を占めているのですから、全体の平均が下がるのは当然です。

佐藤 生産性の低さの根幹に中小企業の問題があるということですね。

アトキンソン こうしたことを指摘すると「日本の中小企業は国の宝」とか「中小企業こそ技術の宝庫」などと、強い反発が出てきます。

佐藤 日本人は判官贔屓ですからね。むしろ大企業が嫌いです。

アトキンソン でも規模が小さいと、満足に設備投資ができません。わざわざ最先端技術を導入しても、少人数では仕事が効率化されない。また人手がありませんから、輸出もできません。労働環境としても、有給休暇取得率は低いし、社員教育もない。女性の進出を阻んでもいます。人数が少ないと、産休育休などで1人欠けるだけでも仕事が回らなくなるからです。

佐藤 結局、スケールメリットが生産性を上げるわけですね。

アトキンソン 日本に中小企業の数が多いのは、国の間違った規制があるからです。国の定めている中小企業の規模が日本は著しく小さい。1999年までの中小企業基本法では、製造業が300人以下、卸売業が100人以下、小売業・サービス業が50人以下でした。いまは改正されて、サービス業が100人以下となっていますが、OECDの基準では、中小企業は業種に関係なく250人未満の会社です。

佐藤 中小企業優遇は日本の国策なのですね。

アトキンソン 「中小企業白書」2019年版を見てみると、1社当たりの平均社員数は、大企業が1308人に対して、中堅企業は41人、小規模事業者は3人です。だから小規模事業者はほんとうに小さい。大企業の労働生産性は826万円ですが、中堅企業は457万円、小規模事業者は342万円と大企業の半分以下です。

佐藤 それでも中小企業が多いのはやはりメリットがあるからですね。

アトキンソン 手厚い中小企業優遇策が取られています。補助金もありますし、法人税の減税や欠損金の繰越控除、交際費課税の特例など、さまざまな税制優遇もあります。特に法人税は資本金1億円以下を優遇していますから、規模を大きくしようというインセンティブが働かない。

佐藤 まさに政策の結果ですね。

アトキンソン だから日本の中小企業は成長しない。中小企業295万社の調査では、2012年から16年までに成長したのは、7・3万社、わずか2・5%でした。

佐藤 もともと小規模業者は成長しようとは考えていないかもしれない。

アトキンソン それは「成長をするべき」と、指導するべき人が言ってこなかったからです。そもそも管轄する省庁の名前が「中小企業庁」です。中小企業の数に価値があると考え、中小企業であれば守ろうという組織になっています。

佐藤 当然、中小企業対策には乗り出さない。

アトキンソン だから最近、私は中小企業庁を「企業育成庁」という名前に変えるべきだと言っています。そうすれば、成長しなければいけないと気がつく。

佐藤 優遇に期間を設けておけば、成長を目指す小規模事業者も出てくるのではありませんか。

アトキンソン ええ。最良の中小企業政策は、企業がその事業の最適な大きさに成長するまでの支援です。私は2060年までに中小企業の数をいまの半分の160万社にすべきだと考えています。

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