日本への毒針? 原潜保有を宣言した文在寅政権 将来は「核武装中立」で米韓同盟破棄

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「日韓と核武装を話し合う」と語ったトランプ

――核武装にほぼ等しい原潜保有。米国は認めるのでしょうか。

鈴置:米国の不介入主義者の中には「日本と韓国には核武装させよ。そうすれば米国が北朝鮮の核開発に巻き込まれることも防げる」と主張する人もいます。少数派ですが。

 実はトランプ大統領も、当選前の2016年3月25日、NYTのインタビューで「日韓に核武装を許すべきか」との問いに対し「それを日韓と話し合う時がいずれ来る」と語っています。

 NYTの「Highlights From Our Interview With Donald Trump on Foreign Policy」(2016年3月26日)から引用します。〈〉の部分は質問です。

・〈On whether to allow Japan and South Korea to build their own nuclear arsenal:〉

“It’s a position that at some point is something that we have to talk about, and if the United States keeps on its path, its current path of weakness, they’re going to want to have that anyway with or without me discussing it, because I don’t think they feel very secure in what’s going on with our country.”

「核武装のための日韓との話し合い」が必要になる理由についてトランプ大統領は「米国がこんなに弱腰を続ければ、日韓は不安に思うからだ」と説明しています。

 ただ、就任後は「自分が率いることになった米国はもはや弱腰ではない」との認識でしょうから、今もトランプ大統領が日韓の核武装を許すかは不明です。実際、この発言の後、「日韓に核武装を許すと語ったことなどない」と言い出しています。

 トランプ大統領がどれだけ本気かは分かりません。北朝鮮や中国に対する駆け引きで語っている可能性が高い。

 が、文在寅大統領にすれば千載一遇のチャンスに見えます。「核を持ってもいい」と言ってくれる米国の大統領がついに登場した。そして今後出てくるのも期待薄。とすれば、ここで一気に原潜=核保有を米国に認めさせようと考えるのが普通です。

「親米」を演じて核武装

――反米政権に核武装を許すでしょうか、米国が。

鈴置:もちろん反米政権には許しません。しかし、米国側の国であり続けるなら、英国型の核――米国の核の傘に入りながらも自前の核も持つ――を許す可能性があります。

 米国の核の傘が当てにならないと見切られて、中国側に逃げられるよりも、自分の側に留め置いた方がよいからです。トランプ大統領の「日韓の核容認論」も当然「英国型」が前提です。

――でも、文在寅政権は明確な反米政権です。

鈴置:文在寅政権は「米韓同盟を続ける」フリをしています。そうやって米国を油断させておき、原潜保有を認めさせるつもりです。

 7月28日の外交戦略調整会議でも韓国政府は「米韓同盟を堅持する」姿勢を打ち出しました。会議を主宰した康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が「安保分野では米国との同盟を強固にする」との原則を確認しています。

「強化を確認せざるを得ない同盟」というのも、その脆弱さの証(あかし)なのですが。聯合ニュースの「韓国政府 米中対立への対応原則提示=安保は韓米同盟・経済は包容」(7月28日、日本語版)が報じています。

 米国の許しを得て原潜を保有、あるいは核武装した後は、米韓同盟を廃棄する方向に向かうのはほぼ確実です。「核武装中立」です。左翼政権は米韓同盟こそが民族分裂と、南北での強権的政権誕生の原因と考えているからです。

 国民のかなりの部分も「核武装中立」を認めて行くと思います。核さえ持てば中国も日本もロシアも、周辺大国は怖くない。米国に頼る必要はないのです。

韓国を見放し始めた米国

――普通の韓国人が米韓同盟廃棄に賛成するでしょうか。

鈴置:現時点ではほとんどの人が反対します。でも、米中対立が激しくなるに連れ、両大国の間での板挟みは極限に達します。中国のイジメに耐え抜く覚悟を持って米国にくみしない限り、米国から見捨てられる可能性が高まっているのです。

 7月28日の外交戦略会議も「板挟み」に陥ったからこそ開かれたわけです。聯合ニュースは「安保分野では韓米同盟を強固にする。一方、経済通商分野では、米国が構想する反中国経済ブロックとなる経済繁栄ネットワーク(EPN)には積極的に参加しない可能性が高まった」と書いています。

 でも、韓国の苦悩は米国がそうした「虫のいい二股外交」を許してくれないことにあるのです(「米中対立激化で韓国『二股外交』の限界 国論分裂の先には『核武装』?」参照)。

 米国がある日突然、裏切り者の韓国に対し同盟破棄を通告するなんてことはないでしょう。しかし不実な国を見限って、在韓米軍をどんどん引いていくと思われます。

 7月17日、米陸軍大学院・戦略問題研究所が「An Army Transformed(変容する米陸軍)」を公表しました。中国の軍事力増強に米陸軍がどう対応すべきかを意見具申したものです。

 韓国に関するポイントは2点。まず「米陸軍の現在の朝鮮半島中心の配備では中国の脅威増大に対応できない」(XVページ)です。

 2つ目は「中国の脅威に対し、米国が共通の認識を持って手を携えられる国は日本、台湾、豪州である。韓国との協力は状況次第だ」(79ページ)です。中国との対決を考えた際、韓国は軍事技術的にも政治的にも重要な国ではないと米国に認定されたのです。

 この報告書通りに米軍が在韓米軍を減らし始めれば、北朝鮮や中国は韓国に対する軍事的な挑発を強化するのは間違いありません。しかし、米国は積極的に韓国を助けない可能性が高い。米韓同盟は実質的に消滅し、韓国は核の傘を失います。

 そうなったら韓国は、自分で核を持つしかなくなる。機能しないうえに中国から憎まれる原因となる米韓同盟は、韓国の側から打ち切りを宣言することになりそうです。

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