「中学スマホ持ち込み」容認へ 87%の学校が反対、悪影響は?

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学校の責任

「全日本中学校長会」の担当者はこう述べている。

〈全国の中学にアンケートを掛けた結果、持ち込みを認めるべきだという学校が13%、認めるべきではないというのが87%でした〉

〈結論としては、持ち込みについて、今の時点でオーケーをするのは時期尚早〉

〈登下校中というのは、1日のうち1時間ぐらいの時間。(一方で)SNSによってトラブルが激増していて、ネットいじめのようなこともあって、子どもが自殺するケースも多く見られる。(登下校中に)有事に迫られる対応数よりはるかに多いのではないか〉

〈持ち込みを認めることになると、教員は対応に疲労困憊することとなって、教職がブラックと言われていますけれど、その風評にますます磨きが掛かる〉

〈何かトラブルが起きたら(スマホを)持たせた保護者が責任を持ちますということであれば、学校としては何も言うことはないですけれども、現状そういうことではない〉

 悲痛な叫びである。

 また、「全国市町村教育委員会連合会」のメンバーも、

〈原則禁止を解く必要性は今のところ低いのではないかと捉えております〉

 と結論付けているし、保護者団体の代表として呼ばれた「日本PTA全国協議会」の担当者は、

〈何よりも保護者からのニーズといいますか、声も今のところそれほど大きくない〉

〈公立小・中学校では、通学エリアは基本的に徒歩圏内。自転車では通える範囲。夜遅く、朝早くの人気がない時間帯に登下校するということも少ないことを考えると、(持ち込みの)ニーズも低くなっている〉

 更には、携帯の利用環境に関しての知見を求められた「安心ネットづくり促進協議会」のメンバーも、

〈緊急災害時に、携帯を持っていることが勘違いを起こさせてしまったり、持っているから安心だと思ったら危険だったりということが生じないとも限らない〉

〈登下校時に災害が起きた場合、スマホを持っていたら、倒れてきた壁の下敷きにならないのかといえば、そんなことはありません。持たせておくと保護者が安心できる、ということはありますが、安全とは別の問題なのです〉

 と指摘している。何やら、今回の議論の出発点の一つがひっくり返るような発言すら出ているのである。

 会議に出席した「全日本中学校長会」の笛木啓介・生徒指導部長に聞くと、

「毎年、全国の中学校に生徒指導に関するアンケートを実施しているんですけど、生徒の問題行動として挙げられるのは、一昔前は、校内暴力だったり他校との揉め事、煙草や深夜徘徊でしたが、最近は7割以上がSNSのトラブルです。年に1回は、インターネットについての安全教室を開きますが、なかなか追いつきません。しかも、トラブルが100あるうち99は学校にクレームが来る。もともとは保護者の方の責任ですよ、と言ってもわかってもらえない。“学校はどう責任を取ってくれるのか”と。現状でも僕らはお手上げです」

 笛木部長は都内の公立中学校の現職校長でもあるが、

「持ち込みとなればどうなるのか。今回の条件があれば、ひどいことにはならないかもしれませんが、ただ、時期が悪いですよね。今は学校はコロナでそれどころじゃない。もう少し平穏な状況だったら十分な議論ができたと思いますけど……」

 同じく出席した「安心ネットづくり促進協議会」の尾花紀子・普及啓発広報委員会副委員長も、

「今回の結論はよく考えられたものと思います」

 と言いながら、改めて、

「とにかくスマホがあれば安心だと親御さんが闇雲に持たせてしまうことは疑問なんです。地震が起きた時にスマホを持っているから安全というわけではない。むしろキッズ携帯やGPSの方が良いかもしれない」

 そう強調するのである。

現場に丸投げ

〈子どもたちが(携帯を)学校に持っていく前提の話になっている気がする〉

〈持っていくありきの議論というのは違和感がある〉

 ヒアリングの際、先の「日本PTA全国協議会」の担当者は、気になる発言を残している。

 初めから容認の結論が決まっていたとすれば茶番劇で、「たわけ者」の誹りは免れないが、この「有識者」とは一体、何者なのか。

 委員は5名。座長は森田洋司・鳴門教育大学特任教授だったが、昨年末に死去したため、竹内和雄・兵庫県立大学環境人間学部准教授が引き継いだ。他に、伊藤秀一・東京都江東区教育委員会指導室長、上沼紫野・弁護士、玉田和恵・江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授という構成である。

 トップである竹内座長に、この指摘をぶつけてみると、

「そんなことはない」

 と首を振って言う。

「登下校時に、子どもの安全を守れという主張は否定できません。その上で、今回の結論は決して容認ではなく、原則禁止の前提で、持ち込む場合にも、厳しい条件を付けたというものです。僕のところにも“もっと緩めろ”というものまで含めて、さまざまな意見が来ています。これを機にもっと議論してほしい」

 また、文科省も、

「今回の通知は、これに従えというものではなく、現場の教育委員会や学校がこれを受けて、実際の運用を判断する。その前提の上で、あくまで持ち込む場合の、最低限の基準を示したものと理解いただきたい」(前出・児童生徒課)

 と述べるけれど、青少年のインターネット利用に詳しい、ジャーナリストの石川結貴氏は言う。

「慎重論を押し切ってまで容認することに、どれほどの理由があるのか。不信感しか覚えません。そして、一たび容認の通知を出せば、管理や指導については現場の先生に丸投げですよね。『便利さ』の行く末について、さまざまな角度から真剣に考えてほしい」

 文科省や有識者会議にしてみれば、「子どもの安全」と訴えられれば抗しきれない。他方、「持ち込み」に伴う膨大なリスク増への批判も浴びたくない。そこで方針だけ決め、後は現場の判断とした、ということか。

 が、国の方針となれば多くの現場がこれに追随せざるをえなくなるのは自然な流れである。

 公立高校教頭など、教師歴40年超。『すばらしきかな、教師人生』などの著書を持つ、和田慎市氏は言う。

「今回の方針は教育現場の崩壊を招きかねない。いずれにせよ、文科省の方々には、これを機会にぜひ1カ月でも2カ月でも現場に赴いて、ご自身の手でスマホの指導をしていただきたい。頭の良い人たちですから、そうすればさすがに“これはまずかった”と思うはずです」

 持ち込み容認のニュースで伝えられなかった内幕。

 ともあれ、これを決めた方々には、この「提案」どおり、ぜひ中学校の現場で、生徒と格闘していただきたいものである。

 それこそ、スマホで検索しても教えてもらえない、リアルな実態がわかるのではないだろうか。

週刊新潮 2020年8月27日号掲載

特集「『親』『教師』は反対大合唱なのに『中学スマホ持ち込み』を容認した『たわけ者』より

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