体罰、ポイ捨て、女性差別… 「昔はよかった」派の昭和美化にウンザリ(中川淳一郎)

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 過去を美化する傾向、やめてほしいですね。7月31日、CNNの日本語版サイトに掲載された国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの女性広報担当者による、「30年前は使い捨てのプラスチック包装などなかった。新聞紙で物を包み、食料品は風呂敷にくるんで持ち歩いていた」発言がネットで物議を醸しました。

 確かに八百屋では新聞紙でくるんでもらい、それを買いもの袋に入れていた時代はありましたが、「30年前」ってバブルの時代で、プラスチック製品を大量消費してなかったか?と。マクドナルドではビッグマックやフィレオフィッシュが発泡スチロールの容器に入っていて、これが環境に負荷を与えると批判され、30年前にアメリカで廃止されて日本も追随した過去があります。

 こうしたツッコミもあってか、記事中の「30年前」は「昔は」にこっそり変更されましたが、彼女の家族は鍋を持って豆腐を買いに行っていたそうです。顔写真を見ると46歳の私よりも随分若そうですが、私の家から100メートル離れたところにあった東京・立川の豆腐屋では35年前、毎度パックに入れ、青いビニール袋に入れてくれていたことを思い出しました。鍋持って買いに行かされたことはありません。

 この方は風呂敷の使用も推奨しているのですが、それって60年ぐらい前の話じゃないんですかねぇ……。ただし、コカ・コーラやファンタといった炭酸飲料は瓶に入っていてリサイクルされていました。店に返すと500ml瓶は10円もらえ、1リットル瓶は30円もらえるというシステムは、確かにエコといえましょう。しかし、悪ガキが飲食店の裏に置かれている瓶を盗み、酒屋に持って行って換金していたのでした!

 昔も良いところはあったのですが、昭和がどんどん美化されていくのは勘弁願いたいところです。というわけで、昭和時代のドス黒いところは語り継がなくてはならない。一気に挙げます。環境問題とはあまり関係ありません。30~40年前にはそれが当たり前だった、私の記憶の中の耐えられない世界です。

 電車でも飛行機でもタバコが吸えた/分別回収なんてなかった/ボットン便所がそこそこ残っており、悪臭がヒドかった。で、バキュームカーが屎尿を回収に来て、これがまたクサかった/「ほか弁」「コンビニ弁当」はすでにあり、プラスチック包装だった/タバコはポイ捨てするのが当たり前だった/駅のホームには「タン壺」があった/酒屋で冷えたビールを買うと「冷やし料」を5円取られた/ビックリマンチョコのシールだけが欲しくてチョコは捨てていた/中年女性を徹底的に下卑たあつかましい存在として描く漫画『オバタリアン』が大ヒット、文藝春秋漫画賞を受賞した上に流行語大賞受賞/中学教師が巨大シャモジを持ち、生徒を廊下に並ばせて尻を叩いていた/野球部の練習では「尻バット」が当たり前

 今の時代、どれだけ上の問題が解決されたのか! そう考えると日本はレジ袋使い過ぎ、と言われるものの、こうした問題を解決するのに大変だった歴史があって、レジ袋にまでまだ手が回らなかったと解釈してもいいのでは。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年8月27日号掲載

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