「菅・麻生」が“利権”巡り共闘 東京への「金融センター」誘致を阻止する理由

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来年度予算の要求項目

 となれば、日本政府がなすべきことは、

「一極集中の批判があるとはいえ、東京の金融環境を、シンガポールや上海などのライバルに負けないものにするため、早急に必要な資源を集中投下しなければなりません」(金融業界関係者)

 ところが、である。

「7月中旬と下旬、2度にわたって総理補佐官の和泉さんと、法務省や外務省、経産省、金融庁、内閣官房の幹部による打ち合わせが行われたのですが……」

 と、永田町関係者。

「菅さんの意を受けた和泉さんがそこで出した指示は、『大阪を中心とする関西圏や福岡の特区』に国際金融機能や人材を誘致するための課題を検討せよ、というものだったのです。課題とは例えば、日本で円滑にビジネスをするには日本国籍を得て自国籍を放棄しなければならない“二重国籍禁止問題”などです」

 なんと、菅官房長官の頭の中にある計画は「東京の強化」ではなく、大阪と福岡に新たな拠点を作る、というものだったのである。

 前述した国際金融センター指数で見ると、大阪はタイのバンコクやアゼルバイジャンのバクーに次ぐ59位。福岡は「圏外」である。百歩譲って商人の町だった大阪が「アリ」だとしても福岡とは一体……。

「日本人でさえ福岡といえば『豚骨ラーメンがおいしい』といったイメージしかない。香港の金融関係者で福岡を知っている人がどれくらいいるのか」(先の金融業界関係者)

 そもそも捕らぬ狸の皮算用で、日本特有の税制を変える無理をしてまで香港の座を奪取しようというのに、その候補地がこれではため息しか出まい。

 ちなみに「大阪・福岡案」の検討を命じた現場指揮官の和泉氏は、

「厚労省の大坪寛子審議官との“コネクティングルーム不倫”を『週刊文春』に暴かれて一時期は静かにしていましたが、菅さんが存在感を増してきたことで、再び勢いを取り戻し、動きを活発化させています」(先の政府関係者)

 和泉氏との打ち合わせの出席者の一人はこう話す。

「この話は和泉さんが発起人というより、和泉さんが『そういうふうに言っている人がいるので検討したい』というものです」

 別の出席者は、

「これから具体的なことを話し合っていこうというくらいの打ち合わせでした」

 と言うから、検討がまだ緒についたばかりなのは間違いなかろう。しかしその一方、金融庁内部では、この件に関する来年度予算の要求項目がすでに決定しているという。「計画」は決して絵空事ではないのだ。

「予算の要求内容は、海外金融事業者向けにビジネスなどの相談を受け付ける『コンシェルジェ』拠点を開設するための経費です」(先の永田町関係者)

 内部文書にはこうある。

〈東京都の取り組みを踏まえ、同様の拠点を国内2箇所に設立するにあたり、各自治体による設立費用を1億円(各都市5千万円×2)と試算し、その2分の1の5千万円を当該事業費として要望する〉

「麻生さんに楔を…」

「コロナは東京問題」として東京都の小池百合子知事を攻撃している菅官房長官。「Go Toトラベル」同様、今回の件でもやはり「東京外し」が行われているのだ。

「東京のことは小池に勝手にやらせておいたらいい。政府は支援しない」

 和泉氏はそううそぶいているというが、彼の“親分”である菅官房長官はなぜそこまで小池知事のことが憎いのか。

「菅さんはとにかく小池さんのようなパフォーマンス型の政治家が大嫌い。それに、小池さんが突如として都知事選に出馬した時など、ことあるごとに対立してきた。今回の件で『東京外し』が行われている背景に、そういった“私怨”があるのは間違いない」(前出の政府関係者)

 新たな国際金融センターの候補地を大阪、福岡としたウラにも、菅官房長官の思惑が透けて見える。

 まず大阪に関しては、

「関係の深い日本維新の会への『土産』ですよ」

 と、先の永田町関係者。

「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の開業について、大阪は当初、2025年万国博覧会より前のスタートを目指していた。しかし、コロナの影響で万博前の開業は諦めることになり、今ではカジノ業者の業績悪化でIR計画そのものの練り直しを迫られかねない状況になっている。そこで新たな経済の起爆剤として『金融センター誘致』を差し出したわけです」

 一方、福岡が俎上に載せられた背景には、麻生太郎・副総理兼財務相の存在がある。実はその麻生氏、今月4日の記者会見で、

「(香港の受け皿は)東京じゃなくて大阪だって、福岡だっていいでしょう」

 として、「大阪・福岡案」について言及している。

「あの会見での発言は、この件で菅さんと歩調を合わせている麻生さんが計画の一端をポロッと漏らしてしまった、ということ。国際金融センターをダシにして麻生さんに楔を打つ。それが菅さんの狙いです」

 と、政府関係者(前出)。

「元々、菅さんと麻生さんは犬猿の仲。15年には消費税への軽減税率の導入を巡って激しく対立しましたし、昨年4月の福岡県知事選では菅さんがバックにつく現職知事に対し、麻生さんが対抗馬を立て、代理戦争が繰り広げられました。その二人が金融センターを巡って手を組んだ。『ポスト安倍』を狙う菅さんが麻生さんの協力が欲しくて貸しを作り、麻生さんがそれに乗った、ということです」

 荒唐無稽とも思える「大阪・福岡案」が真剣に検討される背景には、権謀術数渦巻く永田町独特の事情があったというわけだ。

 水面下でこの計画を進めている和泉氏に聞くと、

「別に意外でもないんじゃないの。だって大阪は先物取引(発祥)のところなんだから」

 そう主張するのだが、先の永田町関係者は、

「香港の受け皿となると、この半年や1年が勝負。大阪や福岡に新たな拠点を作るなんて悠長なことを言っている時間はない」

 と指摘するし、田代氏(前出)もこう語る。

「東京を香港に代わる金融センターにしたいのであれば猛烈に急がなければなりません。日本がゆっくりとやっていれば、あっという間にその座を上海に取られてしまうことになるでしょう」

 が、菅官房長官が「要」の役割を果たす安倍政権に「スピード」を期待しても叶わないことを我々は知っている。何しろ、役に立たない布マスクが我々の元に届いた時、すでに薬局の店頭には不織布マスクが山積みだったのだから――。

週刊新潮 2020年8月27日号掲載

特集「『香港』暗黒化が日本の好機 『アジアの金融センター』誘致で私利私欲 『安倍政権』の悪い奴ら」より

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