日本がインドネシアに500億円の支援を決定 高速鉄道とコロナの裏切りで募る不信感

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既存の支援にも疑問符が

 すでに計画が進行している日本の公的支援についても必要性を疑う声がある。

 たとえば、西ジャワ州チレボン県で進められている石炭火力発電所拡張計画。過去に丸紅などの出資で建設された発電所の近くに、新たに出力100万キロワットの大型発電所を新規建設するという計画で、インドネシアや韓国の現代建設といった大手企業とともに、最大出資者として丸紅、さらには東京電力グループや中部電力らが参画している。こちらは国際協力銀行(JBIC、財務省が管轄)が資金援助を行っているが、昨年末、地元の知事や現代建設のゼネラル・マネージャーらが、4700万円の贈収賄容疑で逮捕された。ほかに約15億円の用途不明資金疑惑もあり、検察の捜査が進んでいる。

 さらに、ODA事業で行われている同州インドラマユ県での石炭火力発電所拡張計画。こちらもやはり、中国資本で建設された既存施設の隣に新たな発電所を計画しているもので、現在、日本の国際協力機構(JICA)を通じ、すでにコンサルなど含む専門的基礎調査などにおよそ7億円(エンジニアリング・サービス借款)が貸与されている。これに加え、計画全体への円借款申請が待たれている状況だ。

 オランダのアムステルダムにも拠点を構え、日本のODA開発事業に詳しい国際環境NGO「FoE Japan」の委託研究員・波多江秀枝氏は、こんな懸念を表明する。

「中国主導で進められたインドラマユ県の計画でも、地元の知事が汚職で逮捕されました。海外の援助を受けたプロジェクトがインドネシアで進められるとき、もたらされる資金が現地の汚職の源になりがちです」

 スハルト時代の汚職の構造は今日でも健在――ということか。この点、先に登場いただいた外務省国別開発協力第一課の渡邊課長は、

「公的資金が汚職や腐敗に流用されないよう厳選な審査をする。審査次第では、ODA供与は見送る可能性がある」

 としている。もっとも波多江研究員は、

「インドネシア国有電力会社(PLN)は、電力不足に陥ると主張していますが、現在すでに電力過剰の状態であり、また同社の資料を基に分析すると、逆に今後10年ほどは30%から45%の供給過剰になります」

 と、先の2つの拡張計画が、そもそも不要であるとも指摘。実際、世界的に「脱炭素化」が進む中、大量のC02を排出する火力発電所の建設支援を行うことで日本が世界から批判されており、支援には負の側面もある。またインドラマユ県では、発電所が出す粉塵によって周辺住民の健康被害への懸念が報告され、現地では裁判沙汰になっている。

 こうしたODAに“上乗せ”する形で、今回、日本はインドネシアにコロナ支援を行うわけである。が、同時にインドネシアの国営製薬会社ビオ・ファルマは、中国のシノパック・バイオテック社とコロナワクチンの共同開発を進めてもいる。8月4日には、量産体制に入る準備を進めていると、インドネシアの国営企業相が発表した。ここでも日中を手玉にとろうという魂胆が透けて見えないだろうか。

 日本がインドネシアにODAを始めて62年。今年7月には世界銀行がインドネシアを上位中所得国として認定した。日本がODA対象の基準にしている一人当たりの国民総所得(GNI)も大幅に上昇しており、そろそろ独り立ちできる頃ではないだろうか。それでも支援するのであれば、高速鉄道の同じ轍を踏まないよう、そしてわれわれの血税をドブに捨てないよう、さらには日中関係の“足元”を見透かされないよう、日本政府や関係各省には肝に銘じてほしい、と願うばかりだ。

末永恵(すえなが・めぐみ)
マレーシア在住ジャーナリスト。マレーシア外国特派員記者クラブに所属。米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省などの記者クラブなどに所属。その後、独立しフリージャーナリストに。取材活動のほか、大阪大学特任准教授、マラヤ大学客員教授も歴任。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月25日掲載

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