コロナ禍から社会を取り戻す二つの視点――小宮山 宏(三菱総合研究所理事長)【佐藤優の頂上対決】
地方の力
小宮山 ただ今回のコロナでは、ちょっと希望が見えてきたところもある。例えば和歌山県。最初にクラスターが発生しましたが、あれは仁坂吉伸知事が非常にがんばって、PCR検査態勢も強化し、抑え込んだ。あるいは千葉市も政府の一斉休校とは違う方針で臨んだし、緊急事態宣言では北海道が一番先に動きましたよね。
佐藤 成功したかどうかは別にして、地方独自の動きがありましたね。
小宮山 コロナでうまく対応できた国を見ると、台湾とか韓国、シンガポール、ルクセンブルク、アイスランド、オマーンなんですよ。
佐藤 サイズが小さな国ばかりです。
小宮山 もちろん小さいからいいのではなく、アンドラやサンマリノなど悲惨な国もありますよ。小さくてガバナンスが利いている国が、そこにふさわしいやり方を見つければ乗り切れるということです。先ほどパターナリズムという話が出ましたが、その核心は中央行政ですね。でもそこに頼らずやっていこうという流れが出てきたことは、一つの希望だと考えています。
佐藤 本来なら危機的状況だと、行政権は強くなるところですからね。
小宮山 「知の構造化」とともに私が重視してきたのは、「自律分散協調系」の社会です。これはもともとHolonic Systemの訳語で、システム工学で使っていた言葉です。人体を考えてみると、心臓や腎臓など臓器は、それぞれ意識しないところで勝手に動いています。でも全体としては調和が取れて生命体になっている。こうしたモデルは現場の創発力を最大限に発揮します。
佐藤 それは小宮山先生が唱えてこられた「プラチナ社会」に直結しますね。
小宮山 私は本来サステイナビリティが専門で、21世紀に実現すべきは、再生可能エネルギーによる物質循環社会だと言ってきました。資源自給、自然共生、生涯現役などが実現され、そこには多様な選択肢があり、自由に参加できる。それをプラチナ社会と呼んでいますが、それには「自律分散協調系」で地方が活性化することが必要です。だから今回、地方に独自の動きが出てきたのは歓迎すべきことです。
佐藤 小宮山先生は地方のさまざまな動きもサポートされていますね。
小宮山 私は、文科省の「革新的イノベーション創出プログラム」でガバニング委員会の委員長を務めています。全国18拠点で、年間80億円くらいの予算をかけ、10年間行います。一番有名なのは弘前大学です。日本一の短命県青森で、高齢化社会対策として予防医療に取り組み、県民千人から、最初は1人2千項目、いまは3800項目の健康データを取っている。そこから例えば3年後に糖尿病を発症するかを予測できるようになっています。
佐藤 それには私が教えている沖縄の名桜大学も連携していますよ。
小宮山 そうです。沖縄もかつては長寿県だったのが、いまや一気に36位まで落ちている。
佐藤 そうした事情に加え、今度、砂川昌範さんという医師が学長になりましたから、そのプロジェクトは名桜大の柱になっています。
小宮山 ビッグデータと言うけれど、肝心なところでデータがない。いまなすべきは、超高齢化社会のために健康福祉の分野できちんとデータを取っていくことですよ。
佐藤 課題解決の一歩ですね。
小宮山 弘前大学が引っ張り、名桜大が沖縄、京都府立医大が京丹後市、和歌山県立医大が和歌山、さらにプロジェクトはベトナムにも広がっています。これを続ければその周辺にデータを使った新しいビジネスが生まれてきます。地方にそうしたものがたくさん出てきたらいい。だから今後もどんどんそうした試みを支援していこうと思っていますね。
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