コロナ禍から社会を取り戻す二つの視点――小宮山 宏(三菱総合研究所理事長)【佐藤優の頂上対決】

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佐藤 文理融合的な知性のあり方は非常に大切で、私も同志社で生命医科学部や理工学部と組んでサイエンスコミュニケーター養成という副専攻の講座を担当しています。

小宮山 大学で学問を究めることは重要ですが、それは社会と切り離してやればいいということではない。社会に課題があったら、それに正面から対峙し総合的に考える人たちがいなければなりません。

佐藤 コロナでは専門家が暴走しているところがあります。

小宮山 感染者の完全な隔離を行えば、コロナは終息します。しかし社会の本質は人の交流です。長期隔離のもとで人がまともにいられるはずがない。不機嫌、鬱、それにDVや生活習慣病が加速するだろうし、経済としては店が閉まり、経営破綻、不況が拡大する。専門家の話を鵜呑みにすると「コロナ対策のためなら、死んでもいい」ということになりかねない。ただ専門知なしでは全体像は描けません。全体の中で専門知を生かすことが重要です。

佐藤 そのためにはどこから始めるといいのでしょうか。

小宮山 まずは公開情報のきちんとした分析ですよ。

佐藤 情報機関でもOSINT(オープンソースインテリジェンス)と言って、軍事情報を除けば、98%は公開情報の分析です。

小宮山 私もコロナによる感染者数や死亡者数、検査数を「アジア」「欧米・南米」「オセアニア・中東」でまとめてみたのですが、100万人当たりの死亡者数を見てみると、一番多いのはベルギーなんですね。致死率も16%ですから、感染者の6人に1人が亡くなっている。ベルギーに国境を接しているルクセンブルクだと、感染者率はベルギーより少し高いのですが、致死率は2・6%とはるかに低い。一方、アイスランドは、感染率はベルギーと同じくらいですが、致死率は0・54%、ほとんど死者がいません。

佐藤 ベルギーとルクセンブルクの違いは興味深いですね。

小宮山 致死率が高いのは、やはり医療崩壊が起きたということです。ベルギーもフランスも、イギリスでも医療崩壊を起こし、逆に崩壊しないよう頑張ったのはドイツや日本ですね。そうした国の致死率は5%くらいに収まる。シンガポールで感染爆発したというニュースがありましたが、たぶん致死率は世界でもっとも低く、0・1%以下です。医療崩壊は起きていないし、感染者が外国人労働者だからです。

佐藤 つまり若い人たちですね。

小宮山 そうです。前から言われてきたように、高齢者や基礎疾患がある人が亡くなりやすい。最近、わかってきたのはサイトカインストーム(血中物質の異常分泌による免疫系の暴走)ですね。だから糖尿病や肥満などの人は重症化する。

佐藤 透析患者なども危ない。

小宮山 日本は医療崩壊を起こしておらず、6月末時点で致死率5・3%ですが、ほとんどは高齢者です。60歳以上の高齢者が94%を占める。

佐藤 高齢化が進んでいるのに医療崩壊を起こしていないのは特筆すべきことです。

小宮山 日本の特殊性は、やはり諸外国に比べて、PCR検査をあまりやっていないことですよ。

佐藤 そこが問題ですね。しかもその事実はよく知られているものの、それが意味するところが理解されていない。新規感染者が100人、200人になったとセンセーショナルに報じられますが、それは分子の話で、分母の話がない。

小宮山 その通りです。検査数が少ないから実態がわからないし、感染者数だけに目が行くから、余計に混乱する。日本の100倍くらい検査している国があるわけですから、検査はすべきですよ。その際、病院が破綻を来さないよう留意する。そして介護施設のような弱いところを徹底的に防衛する。

佐藤 全面的に賛成です。こうしたものには工学的なアプローチが必要です。

小宮山 なるほど、工学的という言い方もできるかもしれない。ともかく均一に接触確率を減らそうという発想ではなく、医療施設や介護施設、家庭での高齢者防護に資源を集中すべきです。

佐藤 そうですね。リスクと呼ぶ閾値は超えていますが、人類がどうかなるようなクライシスではない。

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