「IWC脱退」「商業捕鯨再開」から1年 日本人はクジラを食べやすくなったのか
商業捕鯨再開で、クジラが減った
それから1年である。昨年の商業捕鯨の捕獲枠上限は265頭(ミンククジラ53頭、ニタリクジラ187頭、イワシクジラ25頭)だったが、実際に捕獲した数は256頭。今年の捕獲枠上限は295頭(ミンククジラ120頭、ニタリクジラ150頭、イワシクジラ25頭)とやや増えているが、昨年が7月以降の半年間であったことと比べると実質的に同数という。
では、IWC脱退以前の調査捕鯨はどうだったかと言えば、調査捕鯨停止の判決後の14、15年は調査捕鯨を中止したが、16年以降は新たな調査捕鯨計画(NEWREP-A)を練り直すことで、再開。16年以降は、南極海のミンククジラを捕獲枠上限いっぱい333頭を捕獲していた。それだけでも現在の商業捕鯨よりも多いが、日本は北西太平洋でも調査捕鯨を行ってきた。こちらも敗訴後に捕獲枠を総計380頭から約217頭に減らしたが、それでも、南極海と合わせれば550頭。脱退前は倍近い漁を捕獲していたことになる。
クジラを捕る量が半分になっては、我々が食べやすくなるはずがない。おまけに捕鯨会社・共同船舶は、鯨肉の付加価値を上げるために卸値を1年後には25%上げるとまで発表している。ますます日本人の口に入らなくなるかもしれない。
「捕獲量が減ったのは半分どころではありません」と言うのは、一般財団法人生態系総合研究所の小松正之代表理事だ。小松氏は91~04年まで水産庁職員としてIWC年次会合に毎回、出席。“闘う代表理事”として交渉に挑んできた。
小松:私がIWCに出席した頃は、捕獲枠をどんどん引き上げていった。南極海だけでも440頭だったミンククジラの捕獲枠を935頭に、ナガスクジラの枠も取った。さらに反捕鯨国の抵抗により南極海で捕鯨できなくなることを考慮して、北西太平洋の調査捕鯨も始めた。合わせて1400頭だったから、今の5倍近く捕っていたことになる。あの頃のほうがよっぽど商業捕鯨だったと言えるかもしれない。
――去年の商業捕鯨再開で、なぜ捕獲量が減ってしまうのか。
小松:IWCから脱退したからですよ。日本はIWCから脱退した後、商業捕鯨は領海と排他的経済水域に限定して行う、と決めたからです。つまり最大の漁場であった南極海を放棄してしまったためです。
――脱退すれば、どこででも自由に捕鯨できるのではないのだろうか。
小松:「我々は何にも拘束されない」と言い切ってやる手もある。実は、日本が脱退を決めた当初は、そこに期待したこともあった。でもやっぱり、事なかれ主義の官僚では無理なんです。訴えられるのが怖いし、面倒なんでしょ。働かなくたって、給料はもらえるんだから。IWCを脱退するということは、国際捕鯨取締条約という、日本にとって調査捕鯨の守り神を失うことです。結局、堂々と調査捕鯨ができなくなり、他国と争わぬよう、文句を言われない所で、こぢんまりと捕鯨をしていくしかなくなった。北西太平洋にしても、脱退以前から公海と200海里で400頭を獲っていた。しかし脱退したことで、公海で獲っていた200頭分を捨てることになったんです。
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