政府の本音「コロナで死者が出るのは仕方ない」を解説 いま経済を回す意義とは

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「首都圏はピークを越えた」

 国民の恐怖感に意味があるのかどうかを確認するために、いまの感染状況、そして新型コロナというウイルスの怖さについて、最新の知見で見直しておきたい。

 本誌は7月30日号に、大阪大学核物理研究センター長、中野貴志教授による感染予測を掲載した。中野教授考案の「K値」という、感染の拡大と収束の速度を測るメーターによると、中国由来の第1波、欧米由来の第2波の収束後、6月22日ごろに東京の新宿を“震源”とする第3波が到来。それが収まる前に、7月6日ごろから第4波が立ち上がった、という話だった。

 第3波との違いは、感染者数が大都市圏で4倍になるほか、首都圏中心の第3波に対し、全国に散らばる点だと指摘。的中した。そして、ピークは7月末と予想されていたが、見立てに変わりはないだろうか。

「連休の影響で凹凸が出ましたが、変更はありません。ただし、開始時期に地域差があるため、首都圏はすでにピークを越えているのに対し、関西圏は7月末がピーク、愛知や福岡は8月5日前後がピークという予想です」(中野教授)

 そうであるなら、いま経済を止めることがいかに愚かであることか。医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏も言う。

「感染症には“ファーの法則”があります。新興感染症の患者数の曲線は、最初に急激に上昇したのち徐々に最高値に達し、やがて上昇時より速やかに低下する、という基本原理です。新型コロナでも世界各国の感染状況、特に検査件数に左右されない死亡者数は、これに従っています。その意味で、日本の死者数が今後急増し、欧米並みになることは考えにくいでしょう」

 だから感染者数の独り歩きを許してはいけない――。それが政府の本音に違いないが、玉川某らが扇動する世論に聞く耳がないのも、また事実であろう。

 ところで、このウイルスの性質については、本誌8月6日号で国際医療福祉大学大学院の高橋泰教授(医療政策)の仮説を紹介した。ざっと、こんな内容であった。

 ――新型コロナは毒性が弱く、多くの場合は抗体という“軍隊”が出動するまでもなく、自然免疫という“お巡りさん”で対処できる。その場合、無症状か軽い風邪のような症状にとどまる。こうして日本でもすでに3人に1人が、新型コロナに暴露(さらされること)していたと考えられる。暴露者の内訳は7段階に分けられ、自然免疫で対処できた1~2段階が98%。残り2%のうち重症化するごく少数が5段階、さらに少ない死亡者が6段階だ、と。

「感染が広まると1週間程度遅れて重症者が出て、また遅れて死亡者が出る、と言われていましたが、感染拡大後かなり経つのに、重症者数は想定より少ないし、死亡者もすごく少ない」

 と、高橋教授が述べる。

「新型コロナは、以前からもっと感染が広がっていたが無症状や軽症が多く、見つかっていなかった、と解釈するのが自然ではないでしょうか。暴露力(体に入り込む力)はすごく強いものの、重症化率や死亡率は低い。そのことが立証され、7段階モデルの信頼性が、客観的にみて上がったのではないかと思います」

 立憲民主党の枝野幸男代表は7月25日、安倍総理が緊急事態宣言の再発令を否定したことを受け、「どういう根拠にもとづいて出さなくてよいと思っているのか、国会の質疑を通して問いたい」と述べた。

 有権者の不安に乗じた唾棄すべきポピュリズムだが、ゼロリスクの追求が無用の犠牲者を生むことは、記してきた通り。一方、安倍総理には示すべき根拠はたくさんある。前回、4月7日に緊急事態宣言を発した時点では、すでに感染のピークをすぎており、本当は緊急事態宣言を出す必要はなかった、ということも身に沁みているであろう。

総理が国民に語るべきこと

 冷房と暖房の関係についても、あらためて整理しておきたい。国際政治学者の三浦瑠麗さんが言う。

「小池知事が酒類提供の飲食店に、夜10時までの時短営業を要請したことに、私は反対です。自粛ムードを高め、倒産圧力につながるからです。重症者用のベッドが埋まった、人が次々と亡くなっている、というならともかく、実際には、世論が感じている不安に寄り添っているだけ。不安に実損はないのに、それを実損が伴う営業時間短縮とバランスさせているのが問題です。コロナ対応をする一部医療機関の負担は、広く医療界で共有する仕組みを考えなければいけません」

 現にコロナの影響による倒産は、8月3日までに400社を超える。一方、「Go To」については、

「政府がこれをやめないように筋を通したことを評価します。東京を外したことやキャンセル料の扱いなど、評価できない点も多々ありますが、取りやめなかったことで、夏から秋にかけての倒産を、少なくとも一部は救うことができる。責任あるリーダーがとるべき決断だったと思います」

 東京除外は、政府にとっても忸怩(じくじ)たるものがあっただろう。加えるなら、政府はスウェーデンに倣(なら)いたかったのではないか。

「スウェーデン方式のよさは、幅広く網をかけず、リスクに応じて要請したこと。結果、日本のように感染リスクがない人が閉じこもったり、感染リスクのない業種が営業を制限させられたりしなかった。不要な経済コストが生じませんでした。日本がスウェーデンから学ぶべきは、人々の消費意欲に水をかけるような政策はとらない、ということだと思います」(同)

 政府を持ち上げるつもりはないが、無策と酷評される政府の施策も、それなりに筋が通っていると気づかされる。それでも不安な方は、前出の森田氏の意見に耳を傾けられたい。

「先月、新型コロナによる死亡者は1日に0か1のことが多かった。一方、その裏で毎日、多くの人が亡くなり、死因は自殺やほかの感染症を含めさまざまなのに、社会全体が新型コロナにばかり引きずられている気がします。2月ごろは大変な感染症が現われたと思いましたが、死亡者数が増えず、日本中が経済を止めるほどの感染症か、という疑問が日増しに強くなりました。僕は高齢者の生き死にを扱っているので、新型コロナ以外で亡くなる人を日々大勢見ます。その立場から、死者が少ないのになぜ大騒ぎするのか、と感じます。日本経済を止めるほどか、という点について議論がなされないまま、人間が長い年月をかけて獲得してきた社会的な権利が一気にはぎとられるような事態になっている」

 そして、こう続ける。

「僕が一番危惧するのは、医療従事者がそうした片棒を担ぎ、それどころか、先頭で旗を振っているのが医療の専門家だという現実があること。医師の使命は本来、国民の身体的健康のみならず、精神的、社会的に健康な生活を維持すること。感染症は予防しても社会が滅茶滅茶になってしまえば、医師の使命を果たしたことにならないと思います」

 また、国民が新型コロナに引きずられすぎないよう、政府や自治体は感染の実態がわかる数字こそ、日々示してほしい。それが見えないから感染者数に幻惑され、無用に怖れる人が後を絶たない。そこで、ぜひ知っておきたい数値は掲載の表に示したが、多くが空欄になってしまう。最後に、昭和大学医学部客員教授の二木芳人氏が言う。

「いま感染者がかなり出ていますが、政府はその点と、一部が重症化することはある程度覚悟している。それでも経済を回そうとしています。そのつもりなら安倍総理が前に出て、“経済を回すので感染者も増えるが、いまの医療態勢でここまでは患者さんを受け入れられ、また高齢者を除けば軽症で済む可能性が高い”などと説明しなきゃいけない。そう言ってくれれば、国民は不安が残っても納得できるじゃないですか。それを国民の前で説明できる人は、総理しかいません」

 冷房と暖房を同時にかけられる根拠は、数々示した。加えて国のトップの言葉があれば、根のない不安から自由になり、コロナと共生する社会のあり方について、建設的な議論が可能になるのではないだろうか。

週刊新潮 2020年8月13・20日号掲載

特集「口が裂けても言えないけれど『コロナで死ぬ人が出ても仕方ない』という政府の本音」より

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