両陛下がコロナ禍に“沈黙”される理由 欧州王室の対応と比較

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欧州王室は演説を

 が、こうした強いご信念が現在、存分に発揮されているかといえば甚だ心許ない。海外の王室に詳しい関東学院大学の君塚直隆教授(英国政治外交史)が言う。

「欧州各国の王室は、新型コロナ感染拡大を受け、早い段階から国民に向けたメッセージを出しています。3月15日にはノルウェー国王、そして16日にはルクセンブルク大公、17日には80歳になるデンマークのマルグレーテ2世女王がビデオメッセージを公開しています。また同じ頃、スペインのフェリペ6世国王も特別放送を行っています」

 皇室と関係が深く、感染者の致死率がいずれも10%超と深刻な数字になっているオランダやベルギーでも、国王がテレビなどを通じて国民に呼びかけている。

「イギリスのエリザベス女王は高齢で、感染症の拡大を受けてウィンザー城に避難したため他国より少し遅れましたが、4月5日にはテレビ演説に臨み、英国民の3分の1以上が視聴するなど、大反響を呼びました」

 クリスマスや「コモンウェルス(旧英連邦)の日」に行われる恒例の演説を除き、女王が特別な機会に演説したのは1952年の即位後、68年間で4回目だというから、いかに異例であるかが窺える。

「各国王室による自粛や団結の呼びかけによって、国民も落ち着きを取り戻すことができたのだと思います。例えばノルウェーでは毎年5月の憲法記念日に、王宮の前に市民が集まりますが、今年は感染症対策のため人々は集会を自粛した。その代わり国王夫妻、皇太子夫妻、その子どもたちが3台の車に分乗し、街なかを回りました。王室自ら国民のもとに赴くことで元気づけようとしたわけです」(同)

 国家元首たる欧州の国王や女王と象徴天皇とでは、その権能も大いに異なり、単純な比較はできない。が、それでもなお、国民に呼びかけることの重要性は洋の東西を問わず普遍であろう。

 放送大学の原武史教授(日本政治思想史)が言う。

「上皇は2016年8月、生前退位の意向をにじませる『おことば』の中で象徴としてのお務めについて言及し、そこでは『宮中祭祀』『行幸』の二つが定義されました。この二つが平成流のお務めだとすれば、いま宮中祭祀はともかく、コロナ感染症の影響でもう一つの行幸はかなわず、平成の定義では“現天皇は象徴天皇ではない”という言い方も成立してしまう。もちろん上皇と現天皇のお考えが全く同じとは限りませんが、つまりは平成と同じお務めは現在、不可能だということになります」

 それゆえ、

「平成流とは異なる、新しい『象徴としてのお務め』がどうあるべきかを考えねばなりませんが、現状ではまだはっきりした答えは出ていません」(同)

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